第2話 異世界元勇者、早く起きすぎた休日は
女神アイル様に、イクシオンから地球に帰還させてもらった俺は帰宅次第そのままベッドにダイブした。考えるのを放棄したともいう。で、今起きたわけだ。…周囲は真っ暗だけどな。
「今何時だ?…てか暗いな。……ライト。」
ライトの魔法を唱えると、頭上に光球が現れ部屋を照らし出す。俺は探していたスマホを見つけ出し時間を確認する。
「げ、まだ朝の5時かよ…なんでこんな早い時間に起きちまったんだ…。」
起きてしまったものは仕方ないのでベッドから出て立ち上がり、ふとあることに気付く。
「……あれ?こっちに戻ってきてるのに魔法使えるのかよ!?」
慌つつも、試しに周囲への影響が小さい生活魔法を使ってみる。生活魔法とは、イクシオンに住むものなら子供でも使える生活に便利な魔法の総称である。具体的には
「他の検証は後回しにするとして…これだけは確認しておかないといけないな。」
試そうとしたのは、異世界転移物によくあるアイテムボックス。俺のも例にもれず亜空間にうんたらとかあるらしいが、言ってしまえば容量の大きな便利バッグである。ついでに中に入れたものは時間経過がしない特別仕様なんだとか。結果を言うと、コレもなんの障害もなく成功し、もっと言えば向こうの世界で突っ込んでおいたいろんな物がこちらの世界でも取り出せてしまうようだ。
ということで。今日の朝食はアイテムボックスから取り出したもので済ませることにする。メニューは…適当なパンと、野菜をぶち込んだシチューでいいだろう。向こうの世界では野営するときによく食べていた野外食である。
いざ食べようとパンに手を伸ばした時、玄関の鍵が開く音がする。続いてこちらに足早に歩いてくる足音。そして俺のいる我が家の居間の扉が開かれ、聞きなれた…俺にとって懐かしい声をかけられ、テーブルをはさんだ向かい側の椅子に躊躇いなく腰掛ける。
「翼が休みの日に、こんな早く起きて珍しいじゃない。しかも朝ごはんまで自分で作って。」
「たまたまそういう日だっただけだ。それで、なんか用事でもあったのか?」
「麗花さんに頼まれてるからね。アンタが今日の制服の採寸の日を寝過ごさないようにって。何なら引きずってでも連れていけって言われてるわ。」
「……。」
俺は無言で飯を食う。向こうの世界に行く前なら一切否定できないからな。ちなみに、会話の中に出てきた麗華さんというのが俺の母親である。俺の家族の詳細は追々として、目の前にいる…どこのクラスに一人はいそうな、なんの特徴もないコイツの説明の方が大事だろう?
目の前にいるのは百瀬朋花。一言で言い表すなら、一応同い年の従姉妹だな。というのも俺の母親が朋花の父親の双子の姉にあたる人なのである。ちなみに、朋花の母親は俺の親父のこれまた双子の妹である。そんなわけで、俺の両親と朋花の両親はそれぞれすぐ近くに家を構えてお互いに行き来しつつ、俺と朋花を育ててくれてたわけだ。
で、今日は俺の両親が2人とも泊りがけの必要な仕事だが、新しい制服の採寸という俺がいないとどうしようもないイベント(?)のため、お目付け役を朋花に頼んでたっていうところだろう。で、制服の採寸と言っている理由だが…単純に俺も朋花も今年の春から近所の同じ高校に通うため、制服を買わなくてはならないのである。どうでもいい話だが、俺の誕生月は3月、朋花は4月なのでほぼ1歳違いと言っても過言ではない。
そんなどうでもいいことを考えつつ、俺は朝食の後片付けまで終わらせて出掛ける準備をするのだった。
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