第6式 情報共有

「リゼさん、貴女にいくつか聞きたいことがあるのですが、質問をいくつかしてもよろしいですか?」

 四人での秘した会合を終えた後、訳ある様でカイネとエルシアが部屋に留まっているのに気が付いたリゼとリーゼは、シスター達の提案で中庭に面したテラスで軽食を共にしていた。若干荒っぽい舌触りのパン生地に野菜やハムを挟んだサンドウィッチを食むリゼに、リーゼは声をかけた。

「……ん、聞きたい事ですか?」

「はい、私はこれから貴女達お二人と行動を共にしますが、まだ名前程度しかお互いの事を知っていません。この時間を有意義にするために、知れる情報は覚えておこうかと思いまして」

「成程……一理ありますね」

 小さな口で食んでいくリゼが、嚥下をした後に頷いた。リーゼの言う通り、今現在彼女らが把握している事と言えば対象としている敵の存在、お互いの名前、簡単な素性のみ。本格的な行動は明日からではあるが、互いの事をある程度知っていなければこの先の行動や戦闘での連携も上手くいかない可能性がある。そう考えたリーゼの提案を、リゼは柔らかな笑顔と共に肯定した。

「じゃあ、その前に私から聞きたいことがあります。今のトルネコリスでの件の不死生体の被害はどれくらいですか? それと、その不死生体が発生した時の凡その年数と教会の……えっと、戦闘員さん達の大まかな不死生体と思しき存在との戦闘死亡比率を教えてください」

「……随分、踏み込んだことを真っ先に聞くのですね」

「私は戦いにはあまり向かない錬金術師なので、その分正確な情報が欲しいんです。そこで情で聞きあぐねたり、無作法だと躊躇って余計に人が死んじゃうのは不本意ですし」

「まぁ、理に適ってはいますね。わかりました」

 目の前で無邪気にサンドウィッチを頬張っている姿とはあまりにもかけ離れた、理性と論理思考のみで吐かれた言葉に、僅かではあるがリーゼは怯んだ。錬金術師と言う言葉を先程生まれてから初めて聞いたリーゼにとって、彼女らが化学者と言う自分とは視点思考の違う存在だと言う事は理解していたつもりだった。しかし、今こうして問われた言葉は、どうしても人間味に欠けたものに感じてしまった。勿論それをわざわざ言う必要も無いので何も口にせず続ける。

「まずトルネコリスの建国が凡そ1000年前、トルネコリス暦600年代が不死生命体の一回目の確認記録になっていると聞いたことがあります。もし正確な情報やそれ以外の情報が欲しいのなら、教会本部があるオルテナスへ行くのが早いと思います」

「かなり長いんですね……私達は全く知らなかった」

「情報は限られた範囲でしか正確には共有されていませんでしたからね、私の様な前線を回る者でもその不死性故に撃退のみが許されるといったものでしたし、そもそも錬金術が関わっているなんて誰も考えませんから」

「まぁそうですよね……」

「次は不死生体の被害数ですね。トルネコリス全生物種総人口約4600万、人類が約3220万人。ここ近年のトルネコリス国内における年間の死者は約12万人前後、関連負傷者も19万人まで登っています。教会戦闘員は聖人も含めて約2万人、その内の死者は年間約450人、負傷者は約18,600人程度が出ています。勿論、年によって増減こそありますが」

「人口や教徒の数に比べて、戦闘員の数が少ないんですね……」

「一応例年一定数の志願者は居りますし、その多くは不死生体によって身内や友人を殺された敵を討つための人が殆どです。保護した孤児の中からも、本人の意思、戦闘適性の高い者、神力適応者は大体居ります。が、それと同程度の殉職率で増減は大きくない……と言った具合です。トルネコリス軍も居りますが、あちらは国防や内政もあるので常にそれに注力する訳にはいかないそうです。個別の対策費や部門は設立されていますけど」

「わぁ……一気に細かい数字が出てきて整理するのに時間かかりそう」

 そう言いながら懐から取り出した手帳に細かく情報を書き記すリゼ。学者故の癖、情報の書き留めを無意識に行いながら、自身らが触れてくる事の無かった国の事情を脳内で纏め始める。

(不死生体の第一発生は大体400年前、私達のご先祖様が排斥されたのが950年前……多分どこかに存在してる別に生き永らえた錬金術師達が作り出したと仮定すると、それが自分達を排斥した行為に対する報復活動……だと考えられるかな。賢者の石の製法は元々不明点が多くて成功例もほぼなければ実物も無かったはず。それでも、550年もあれば流石に不完全でも賢者の石は作れるはずだから、その予想筋で間違いは無い、と思う。もっと情報が欲しいけど、リーゼさんあまりそう言うのは得意じゃなさそうだしなぁ……カイネと正式な文献が調べられるまで詳しい掘り下げは保留かな)

 時系列を纏める年表を書きながら、リゼは眉間に皺を寄せた。どうしても情報が足りない。今自分達が村を出て外に出たのは、単なる不死生体の討伐をするためではない。勿論それらと遭遇する、情報を掴むなどすれば対処するが、最も重要なのはその賢者の石を基にした生命体を作った存在と理由の解明。しかし、現状は推測すらもできない状態。大人しく纏めるものだけを纏め、リーゼへと顔を向け直した。

「ごめんなさい、ありがとうございます。ここから情報収集をして推論を組み立てていけば、根本の原因を生み出す存在まで辿り着けると思います」

「少しでもお役に立てたのであれば何よりです。では私も質問をしてよろしいでしょうか?」

「いいですよ」

「先程の質問に比べれば随分雑談な内容なのを先に謝罪しますね」

「あはは……折角親睦を深めるのなら、私の方が空気を読めてなかったんですけどね」

 頬を掻きながら照れた表情のリゼ。そこに先程までの無機質な雰囲気は無く、カイネの様に不愛想ではない人当たりの良い笑顔が浮かべられている。

「いきなり不躾ですが、お二人はおいくつなのですか? 私と近そうだとは思うのですが」

「私もカイネも19歳ですよ、リーゼさんは?」

「18歳です、私の方が年下ですね」

「一個違いなんて誤差誤差、そんなに気にしなくてもいいと思うよー」

「そう言って頂けるのなら、私に対しては砕けた口調でも良いですので。あとはそうですね、カイネ……さんですが」

「呼びづらいなら呼び捨てにしたらどうかな?」

「一応年上ですし、先程訳も聞かずに攻撃を仕掛けてしまったので……その、何と言いますか」

「あぁ……なるほど。大丈夫、カイネは仕方ない理由あっての誤解ならなんとも思ってないと思うよ」

「そうだと良いのですが……」

「それで?」

「カイネさん、あの方に関して幾つか思う所がありまして」

「ほうほう」

「一つは、あの方と先程一戦交えた時に感じた事なのですが、その、化学者である錬金術師の方と言う認識をした時、似つかわしくない戦闘能力だと……ふと思いまして」

「確かにカイネは村でも唯一戦いに適した錬金術師だったけど……」

 リーゼの言う様に、錬金術師は前提として化学者、或いは研究者である。戦いに応用の効く能力を持っていても、それを実際に戦いに転じさせるかと言われれば否だ。建国当時やその付近の時代ならいざ知らず、特に大規模な戦いがない現代ではわざわざ戦いに適した形に進む必要はない。魔獣などからの被害も無く、外部からの人間が襲ってくることもカルベニスは無かったので、村で有事の際に戦うことができるのはそれこそカイネのみだった。それも、彼の師の教えで培ったためであるが。

「その、何と言いますか。対人戦に慣れ過ぎた体捌きでした」

「慣れ過ぎた?」

「えぇ、人間や人型に近い相手との戦闘は、訓練でいくら慣らそうと思っても限界があります。そこに命のやり取りが挟まれれば、ある程度経験を積んだ人間でも絶対に身体動作は鈍さを帯びます。私も、度重なる戦闘は繰り返せど人間相手では微妙にやりづらいですし」

 ですが、と。リーゼは頬に手を添える。視線をやや下に向け、先程の戦闘を思い出そうと記憶を遡る。

「カイネさんは――――慣れています。推測の範囲を出ませんが、私はあの方が私の脇腹に戟を刺した時、太刀を振るおうとした時の一切の澱みの無さが、今になって不自然に感じてならないのです」

「うぅん……そう言われても私はその手には疎いからなぁ……カイネが村でどういうことをしてたのかも全部知ってる訳じゃないし」

「そうですか……」

「でも、カイネは少なくとも大きな心配はいらない位には強いよ。なにせ十年以上、一日も鍛錬を休んだ事は無かったし」

「それは私も疑っていません、先程身に染みて理解しました」

 刃を交え、混じり気の無い闘志を持って戦えば、言葉を交わすよりも理解できる場合もある。座学をそこまで得意としないリーゼが持つ持論だ。実際にカイネに関しての一側面はそれで理解し、リゼの認識とも大きく乖離は無かったのが証左。ある意味行動を共にすることを決める前に、敵意を互いに持ちながら戦いを行えたのはリーゼにとっては幸運だった。

「あと、もう一つ彼に関して聞きたいことがありまして……」

「カイネに結構興味があるね?」

「不死生体の切り札となる存在ですから、疑問に思う事は今の内に聞いて損は無いかと」

「一理あるね」

「ええと、そうですね。あの方、カイネさんにご兄弟が居たり、と言った事はありますか?」

「兄弟……ですか」

 その時、リゼの表情が曇る。リーゼは一瞬、質問するべきではない内容だったかと思い、質問自体を無いことにしようかと考えた。が、すぐにリゼは話しを始めたのでその言葉を呑み込んで消した。

「カイネには……妹が一人居たの。当時は六歳だったかな」

「当時……と言う事は――――」

「うん。細かい内容は知らないけれど、妹ちゃんは瀕死の傷を負わされて行方不明になったの。私達が八歳の時、カイネと妹ちゃんが村から少し離れた場所に出てた時に、正体不明の何かに襲われて」

「……すいませんでした」

「ううん、大丈夫。今はカイネも、受け入れられてきてることだから。それで……なんでそんなことを聞いたの?」

 首を傾げるリゼ。今現状でカイネの血縁関係はこれからの共同での行動にも、交流にも特に大きく必要な事ではない。その妹が生存し所在もわかっていればまだ話は変わるが、それができない今特にする話ではない。リゼはそう思ったが、リーゼはそれを理解した上で続ける。

「彼……カイネさんを落ち着いて観察した時、既視感があったんです。先程まで対象が何だったかわからなかったのですが、今わかりました」

「既視感?」

「はい」

 リーゼが一泊置き、息を小さく吸う。

「私は教会の聖人の中に、カイネさんの姿と良く似ている方を知っています」





 時針は巡り陽が落ちる。エルシアの厚意もあり夕餉を共にしたカイネは、宿に戻るまでの少しの間に、中庭の見えるベランダで休息をとっていた。

「あの……トレストバニア様」

 教会に来た直後には無かった酷く穏やかな表情で天を眺めるカイネに、背後から声がかけられる。カイネが振り向くと、今日半日の間にカイネとリゼの世話係としてついていたシスターの少女三人が立っていた。

「エフィー、ミーナ、ユニ。俺の事はカイネで良いと言ったと思うが」

「その……エルシア様とリーゼロッテさんのお客様ですし、お名前を軽々しくお呼びするのは……」

 サラリと艶のある金髪を肩程までに伸ばした碧眼の少女、エフィーは眉尻を下げながら委縮したようにそう言った。その後ろで同様に頷く赤褐色の髪を一つ結いにした少女ミーナと、黒髪をおさげの様に結んでいる少女ユニも、言葉にこそしないが弱々しい目でこちらを見上げている。

 カイネは珍しく、困ったように顔を顰めた。カルベニスで生活をしている時から、年の離れた子供に接する事は少ない訳ではなかった。むしろ、錬金術師アルケミストの称号を持つ存在として、錬金術の基礎や錬金術士の育成のために教鞭を振るうなど、決して子供の扱いを心得ていない訳ではない。

 しかし、こうして委縮する様に、明確に尊ばれるような扱いを、年端もいかぬ少女達にされるのには慣れていない。日中は食事もどうかと誘われたため、教会の力仕事や雑事を手伝う事を申し出ていた。その為に彼女達三人にその都度声をかけていたのだが、どうにも年に似合わない様子にカイネはほとほと困惑していた。

 なにより、自分が敬称を付けられ呼ばれることがどうにも居心地の悪さを覚えさせる。どうにかならないものかと目の前の可憐な少女達を見るカイネが、ふと何かに思いついた様に徐に懐を探り始めた。少女達がどうしたのかと首を傾げていると、カイネが手に持ち彼女らの顔の前に差し出したのは、カイネの拳大程のサイズの鉄塊。何の変哲も無い鈍色の塊だった。

「見ていてくれ」

 そう呟いたカイネの掌が閃光に包まれる。雷電の奔りに目を細める少女三人。やがてそれが止んでから少し間を開けて――――。

「わぁ……」

「きれい……です」

「すごい……」

「今日半日だが、俺とリゼに何かと世話をしてくれた礼だ。手持ちの物で作った簡単なもので申し訳ないが、もし嫌でなければ受け取ってくれ」

 カイネの掌、閃光が無くなったそこにあったのは鉄塊――――ではなく、銀色に輝く三つのブレスレット。上面となる場所は軸よりも太くなっており、そこには線が折り重なる五芒星が彫り込まれていた。

「そこに刻印されているのは、俺の母が良く持ち物などに刺繍をしてくれたペンタグラムと呼ばれる図形だ。キキョウ、と言う花を紋として描いたものを変形しているらしく、魔除けとしての効果があるらしい。三人が魔獣などに被害に遭わないよう、願いを込めた」

「こ、これを私達に……?」

「よいの……ですか?」

「これはエフィーの名を掘ったものだ」

「え……あ、本当に名前があるです」

「こっちはミーナ」

「僕の名前が、彫ってある……!」

「ユニはこれを」

「ふわわ……! 私の名前まで」

「他の子には内緒だ、袖で隠れるようにするといい。もしフィアルドの教えにデザインや装飾の類がそぐわないのなら、捨てても構わない」

「い、いえ! トレスト――――」

「ん?」

「……かっ、カイネ様! その……私達の様な者にまで、ありがとうございますです!」

「カイネ様は、魔法使いなの?」

「何と答えればいいか……まぁ、魔法使いと似たようなものだと思ってくれ」

「わぁ……!軽くてキラキラしてる!」

 少女達が楽し気にお互いのブレスレットを見せ合う様子を、カイネは小さく微笑みながら眺めていた。村の子供にはあまりこう言った物を贈らない――――そもそも、自分達の力で物を変形変質させ新たに形作る技術を養うのがカルベニスで子供達だ。だからこそ、こうして無垢に喜ぶ姿は、カイネの普段強張ったまま動く事の少ない表情を緩めさせた。

 彼女達に重なる、自分と似た色の髪と目を持った少女。それを瞬きで霧散させ、カイネは屈めていた腰を上げる。

「そう言えば、俺に何か用があったんじゃないか?」

 そう問うたカイネの声に、三人の少女はハッと思い出した様子でこちらに向き直った。

「そうでしたです……」

「明日から教会で寝泊まりすると言う話を聞いたから、一緒に居たお姉さんと部屋はどうするか聞いて来いって言われたんだ」

「その……ここには男性があまり居ないので……」

「あぁ、成程。もし部屋にあまりが無いのなら、リゼとは同室でもいい。ただ……そうだな、もし余裕があれば、リゼと別の方がアイツも気兼ねは無くなるだろうからそうして欲しい。最悪、俺の部屋は物置でもいい」

「そんな! お客様にそんな場所はダメです!」

「ちゃんと僕らが部屋を準備するから、大丈夫」

「私達、精一杯お世話しますから……」

「……すまないな、お前達の様な年下の少女に気を遣わせてしまうとは、俺もまだまだだ」

 小さく息を吐くカイネ。それを見てわたわたと慌てる三人を、青年は手で制した。

「取り敢えず、明日はそう言う具合に部屋を用意してもらえたら嬉しい。そもそも宿泊させてもらうだけで御の字だからな」

「わかりました、エルシア様にもそうお伝えしますね」

「……明日、も……一緒にお食事しましょうね?」

「僕達、今日色々と手伝ってもらったからすごく助かったんだ。だから、ここにいる間はカイネ様のお手伝いをしたいなって」

 真摯な目線を向けられる。カイネは一瞬驚いた顔になり、次第に微笑みを浮かべる。

「そうだな……そう長くはいられないが、此処に居る間はよろしく頼む」

 そう言うと、少女達はわっと喜び顔を見合わせていた。夜の帳が下りた空の下に、随分と明るい声が響いた。ここが街の端であって良かったと、カイネは内心呟く。

 そうして用件が済んだ少女達は、就寝するために自室へと帰っていた。一転静寂に包まれた。ふぅ、と息を溢せば、吐息は月の浮かぶ紫紺の空へと溶けて消えた。

「あの子達と、随分仲が良くなったのですね」

 夜の微睡みに溶けるかのように柔らかな声色。目を覆う布で表情こそわかりかねているが、その雰囲気が酷く楽し気な事はカイネにも理解できた。

「子供は未来の可能性の塊だ。それもああして純真に、真っ直ぐこちらを見てくる子ならば、それに応えるのが正しいと思う」

わたくしもそう思います。それでも、あんな年端もいかぬ子達にブレスレットと甘い言葉をかけるのは正しいのかわかりかねますが」

「そう言うつもりはないんですが……」

「そうでしょうね……ふふ、貴方とお話すればそれはよくわかりますから」

「あまり揶揄わないでくれると助かります……エルシアさん」

「折角固い空気を和らげてお話しできるようになったのですから、わざわざそういう事はしませんよ」

 くすくすと笑う、金髪の女性。エルシアは見えないはずのカイネの顔を横から覗き込む。銀朱の瞳はついと瞼の縁に移動し、端で彼女の姿を捉えていた。そこには、年上の女性らしい大人びた笑みを浮かべるエルシア。その姿に、カイネは頭を小さく掻く。

「俺達はこれから宿に戻ります。明日は午前には教会へと赴くつもりなので、そう言うつもりで」

「えぇ、心得ています。昼に話したように、必要な資料は運んでもらうよう手はずは済んでいるのでご安心ください」

「助かります、では――――」

「……カイネさん」

 踵を返し、帰り支度をしに行こうと歩き出したカイネを、顔を向けずに呼ぶエルシア。その声に、青年は歩みを止めた。

「先に話した、例の聖人の少女の話。今一度聞きます。私が連絡を取り、すぐにでも会う予定を立てることはできます。それでも貴方は――――」

「昼にも言った通り、わざわざ急いて会うつもりはないです。嫌が応にも何れは顔を見ることになる、その時でいい」

 それに、と続ける。

「もしその子が俺の悔恨であっても、そうでなくても、今更会ってすぐにどうこうできる訳も無い。俺はあの子を守れなかった。確かに俺と同じ髪と目の色を持っているのは偶然とは言えない相似点ですけどね」

「何かしら、血筋の関係性は?」

「俺の親は親族の事をあまり語らなかったが……もしその子と会う時があれば、その時に考えます」

「……そうですか、出過ぎた真似をしてしまい申し訳ありません」

「いえ、それでは」

 そう言って、青年の姿は月明かりに照らされた廊下の先に消えていった。

 エルシアは一人、ベランダに立ち想起する。

「貴方とあの子、私の感覚に狂いが無ければ――――いえ、これは無粋……と言うものですね」

 そう呟いた声は、闇の中へ消えて無くなっていった。

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