第39話 対面-1

 途中、道路に向かって備え付けられた無数のエアコン室外機が浴びせる熱風が相乗効果を生んで著しく行く気を損ないました。

 代々木八幡の境内へつながる階段に差し掛かると、鬱蒼と生い茂る木々の光合成で生れた空気が気温を五度は下げているような感覚にさせ、その足取りは重くなっていきました。

 でも果たしてそのような感覚にさせるのは空気の存在だけでしょうか。

 いやいや、それだけではないモノも作用しているように思えてなりません。

 何事かに対する漠然とした不安、真っ黒にしか見えない境内が殺気となって恐怖心が増し、それらが混在し、より一層寒々とさせました。

 竪穴住居に着きました。

 もう既に黄色いテープの予防線は解かれていましたが、囲いのフェンスに設けられた扉の鍵はまだ壊れたままになっていました。

 時計を見ました。ちょうど午後九時でした。

 私たちはそうっと竪穴住居を囲うフェンスの扉を開けました。

 ギーッという音がして飛び上がる程びっくりしましたが、それに気づいた人らしき気配は感じられませんでした。

 私は「先に中に入って見てきます」と言い、雅美さんを残して竪穴住居に入って行きました。


***


「先に中に入って見てきます」と言われてしまい、私は真っ暗な境内に一人立たされることになりました。

 何分が経ったのかわかりません。

 一瞬のことかもしれませんが、一分にも一時間にも感じられました。

 ようやく中から「雅美さん」と、呼ぶ声が。

 ゼンマイ仕掛けの人形のように、勢いよく住居の中へ。

 真っ暗で何も見えない。

 誰も何も言わない。

 物音一つない空間でツーンという音が脳髄を刺激する。

「ふざけないでくださいよ~」と、見栄を切って叫んだ。

 狭くて窓のないほとんど密閉の竪穴住居で私の叫びがビーンと震えた。

 奥のほうでスマートフォンの画面が付きぼんやり明るくなった。

 と、目の前にこちらを向いて真剣な顔が立っていた。

 首筋に黒子のある、口角の上がった利発そうな顔。

 私はもう一度言った。

「ふ、ふざけないでくださいよ~」

 すると、

「これで、誰にも邪魔されずにゆっくり話ができます」

 と、返事がきた。

「話ができるって、何ですか」

「さて、何だと思いますか?」

 私はつとめて冷静に彼の言葉を受け止めましたが、声にはなっていませんでした。

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