第40話 対面-2

「先に中に入って見てきます」と言い残し、一人、住居の中に入って行ったは良いものの、目まぐるしく回転する頭と激しく揺れる胸を鎮め、暗がりで見えない眼をなじませるのに思いのほか時間を要しました。

 直径四メートルほどの竪穴住居の中はがらんとしていました。

 振り返り、今度は住居の入口に集中しました。

 これから起きることに万全を期すつもりで先に入ったのは正解だったんだろうか。

「雅美さん」

 と言うと、雅美さんは勢いよく入ってきました。

 しかし、まだ暗がりに慣れていないのか、

「ふざけないでくださいよ~」

 と、意識的に大きい声でこちらを呼びました。

 小さくて窓のないほとんど密閉状態の住居内でその叫びがビーンと木霊しました。

 スマートフォンの画面をonにすると雅美さんは今まで見せたこともない顔をしました。そして、また、

「ふ、ふざけないでくださいよ~」

 と、言ってきました。

「これで、誰にも邪魔されずにゆっくり話ができます」

 と、返事をした。

「話ができるって、何ですか」

 と、言うので、

「さて、何だと思いますか?」

 と、かまをかけた。

 雅美さんは、喉から絞り出すように声にならない声で、

「あなたは・・・」

 と、言ってきた。だから正直に教えてやった。

「そうさ。重蔵と紀子の息子、蓼科へ引き取られた、あの耕太さあ!」


***


 覆面パトカーの中で、加納刑事は陣頭指揮を執りつつ、後部座席に座る寺岡支店長の様子も窺っていた。

 朝比奈雅美がどうしてもと言って利かないから連れてきたものの何者なんだ。

 神妙な顔をして絶えずハンカチで汗をぬぐいなにやらブツブツ独り言を言っている。

 車内の温度は二十三度を示しているのにおかしい。

 おとなしくしてくれればいいが。

「みんないいか、逐一報告をよこせ」

「今、遅れて雅美が住居の中へ入りました」

「裏口の仁科と吉岡、言った通りに。それから正面階段の谷中と田崎、よろしく頼む」

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