第38話 雅美、決定的根拠を発見
「あ、加納さんですか、朝比奈です」
「あさひなあ~? じっとしてろと言ったはずだ! 今どこにいる!」
加納刑事は興奮していました。
「そんなことはどうでもよくて、、、」
「どうでもよくない! で?! こっちは忙しいんだ」
「目黒川で見つかったお婆さんですけど、そのお婆さん、ウチの周りをうろついてた人じゃ?」
「ナ~ニ~? 目黒川? そんなことは言えないな」
ちょっと間があって、
「もしもし、朝日奈さんねえ、あんた、なんか、知ってんな」
***
急いでカフェに行くと、雅美さんは待ちくたびれた様子で窓の外を眺めていました。
私が見えると嬉しそうに手を振って『ここです』と手招きしています。
これから遊園地へでも行きそうな無邪気さで。
時計を見ると午後八時半でした。
「ごめんなさい、お待たせしちゃって」
「大丈夫です。色々振り回しちゃって、こちらこそごめんなさい」
自覚はしているんだなと思いつつ、
「今までどこで何してたんですか?心配しましたよ」
「ごめんなさい。紀子さんのご実家へ行って来たんです」
「え~?! じゃあ、住所わかったんですか」
「寺岡さんが叔父さんの名刺を探し出してくれて。携帯に送ってくれました」
「寺岡さん、やり方わかってるじゃないですか」
「ああ、操作は違う人みたいでしたけどね」
「ああ、じゃ、やっぱりわかってなかったんですね」
「フフフ、そうみたいですね。その後すぐに電話があって『ちゃんと届きましたか』って電話がきました」
「あの時、スマホ見てたのはその叔父さんの名刺だったんですね」
「え? ああ、ええ」
「なんで、私に教えてくれなかったんですか」
「それは。。。」
「まあ、いいですけど。ご無事で何より」
「父のお通夜ですが、受付、どうぞよろしくお願いします」
「了解です」
「ところで、メールして来たのは一体誰だと思います?」
「ああ。私も雅美さんから言われて少し考えたんですが、あ、ニュース見ましたか」
「ああ、目黒川の事件ですね。あれ、私、黒衣の老婆だと踏んでます」
と雅美さんは目を細めて言いました。
「ということは、まだ私たちが知りえない人物がこの一連の出来事に関わっていると考えなきゃならないのかなって」
「まだはっきりつかめていませんけれど、考えられるのは紀子さんの長男でこうた、それから二人目の子ども」
「ねえ、雅美さん、もうやめにしましょ。こういうことは警察に任せましょ。あっ、警察には連絡しましたか」
「いえまだです」
「ええ???! まーだー!? なんでえ?」
「なんでって。正直に言うとこれは朝日奈家のスキャンダルなんです。公にしたくないっていうか、なんていうか」
とまたしても好奇な目で私を見ます。
もうそれにはひっかからないんだから。
「いやいやいやいや、そういう問題じゃないですって。人が三人も死んでるんですよ。紀子さんでしょ、社長でしょ、家をうろついていたお婆さんでしょ。命の危険性があるんですよ。わかってます? 行くのはやめです。いいですね」
「そう言うと思った」
「わかったら帰りましょう」
と、私が立ちかけると、
「嫌です」
頑として拒む雅美さん。
「雅美さん、何故そうまでして、事件に関わろうとするんですか」
雅美さんは、射抜くような目で、しかし凛とした顔でこう言いました。
「私の代で終わらせたいんです。祖父、父、この二人に翻弄された女性がいました。紀子さんです。もしお子さんが死んでいなければどこかにいるはずです。私はその人に対して何か責任のようなものを感じているんです。どうかお願いです。協力してくれませんか」
雅美さんの瞼が赤くなっていきました。
雅美さんはそれを私に気付かれたと察して一瞬気まずくしましたが、瞬きと同時に大粒の涙がこぼれ、でも笑顔で、
「お願いです」
と付け足しました。そうまで言われてしまうと私としても、
「もう、しょうがないんだからぁ~」
と言うしかありませんでした。
その時です。
雅美さんは顔が凍りついたようになり、一点を凝視したまま動かなくなりました。
「雅美さん、どうかしました?」
と私は聞いたのですが、雅美さんは、
「え?ああ、いえ、なんでも」
と、何故か言葉を濁しました。
私は、お店に誰かが入って来たのかと後ろを振り向きました。
特に異常はなく、何だろうとちょっとひっかかったのですが時計を見ると九時十分前。
「雅美さん、じゃあそろそろ行きますか」
と言って、あの忌わしい代々木八幡の竪穴住居へ向かいました。
雅美さんは明らかに何かを見つけた。何だろう。
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