第一話 二つの太陽
目が覚めると周りは色の濃い霧に囲まれていた。
「ゲホッゲホッ」
その霧はひどくアルコール臭くて未成年の俺はむせ返ってしまった。
吐き気が収まらず思考が定まらない中、千鳥足で歩き始めた。
5分ほど足を進めると霧はすっかり晴れて同時に頭も冴えてきた。
「そうか、異世界来たのか……」
俺が転生したのは森の中だったらしい。振り返るとさっきまで俺を包んでいた濃霧と小高い森がかすかに見えた。そして眼前には……
「これが異世界の街かよ……」
そこには様々な人種が行きかう、嘘みたいな景色が広がっていた。
あちらこちらで冒険者や商人のような恰好をした人々が会話している。
「とりあえずギルドとかあんのかな……」
◇ ◇ ◇
求人:C級ギルド マッスル・ビルダーズ
男のみ急募。年齢問わず筋肉の為に切磋琢磨できる逸材。
活動内容:スクワット、腹筋、ダンベル上げetc…
求人:B級ギルド キラーゴブリンズ
男女問わず。ゴブリンを殺して殺して殺しまくれる人。
活動内容:ゴブリンを殺して殺して殺……
ろくなもんがねえな。
こりゃ自分で募集してみるしかないか。
ギルド集会所内はたくさんの冒険者やら盗賊やらで賑わっていた。みな酒を酌み交わし、何の肉かもわからないようなぶっとい骨付きの肉を食らっていた。
俺はというと隅っこで一人肩身を狭くしてギルド入会者を待っていた。よく考えると一文無しだしクエストに行こうにも戦闘力が全然及ばない。これからどうするかをひねくれた脳みそをさらにひねって考えていた。
「もっと夢のある生活かと思ってたぜ……」
「あんたがケントっちゅう鍛冶屋か?」
急に名前を呼ばれたので石弓に弾かれたように顔を上げるとそこには2,3歳上くらいの青年がいた。髪は少しクセ毛で真っ青だ。目が極端に細くて閉じてるか開いてるか判断がつかない。
「いや~鍛冶屋でギルド募集ってのはおもろそうやな。入れてくれや」
「それはもちろんいいけど……」
「あ~俺の名前はアオガミや。一応元王国兵やから実力は心配せんでええで」
それは心強い……がなんで関西弁?なんだろうか。でも多分聞いてもわからないだろう。改めてアオガミを見ると180は超えているであろう身長に細身ではあるががっちりとした身体。確かにその顔に張り付いた笑顔の奥に屈強なオーラを感じる。
「兄ちゃん、けったいな眼してんな」
「え?」
「ほれ」
アオガミが差し出したのは鏡だった。そういえばこの世界のどこでも見ていなかった。現世より明るい茶色の髪、少し高くなった鼻。それらを押さえつけて印象に強く飛び込んできたのは俺の左眼だった。蒼く発光していてグルグルと螺旋型の模様が渦巻いている。
「これが“賢者の義眼”……」
「あんちゃん異能持ちなんか。そりゃ心強いな」
そういって笑うアオガミからビシビシ感じる猛獣のようなオーラ。これも義眼の能力なのだろうか。
「まぁ今日は時間も遅いし、明日から小遣い稼ぎクエストでも行くか」
「え、でもまだ外は明るいぞ?」
「あの光はお天道様のもんやないで。……あんちゃん旅の人か?あれを知らんっちゅうことは」
俺たちは集会所の外に出て空を見上げた。
「太陽が……二つ!!??」
「あの西に見えるんがほんまもんのお天道様で、東にあるんが
“ネフェルタリの
モン造ったせいで国民はもう80年近く夜を拝めてないんや」
「なんであんなもんを……?」
「なんや“黒夜病”も知らんのか?まるで他の世界から来たみたいな兄ちゃん
やな」
少しギクッとしながらも俺は質問を連ねた。
「黒夜病……?なんだよそれ」
「ここ何十年かで大流行している病で、かかった人は人格を失ってただ暴れまわるバケモンになるっちゅう原因不明な病や。分かってるのは夜に発症しやすいってだけ。それを恐れた王様は夜が来ないようにあれを造ったってわけやな。効果は全然なかったが」
「かかった人は最終的にどうなるんだ?」
「それは分からんが、発症者は王国直属の勇者様一行が来て……」
アオガミが少し不気味な笑みを浮かべ、親指を立てた形で右の拳を首筋まで持っていき水平方向へ勢いよく振りぬきながら言った。
「……お釈迦や」
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