新人女神のミスで鍛冶屋として召喚された俺、お詫びに貰った異能で成り上がる。

爆裂☆流星

第零話 惨憺たるエンドロール

「どっからでもかかってこい!!この大勇者様が切り刻んでやる-!!」  


赤黒く染まり上がった空に青年が吠える。それに答えるように空飛ぶ九つの頭を持つ大蛇-『ヒドラ』が吠える。俺は愛剣ソウル・ディ・センバーを頭上でかまえる。


「また無理させちまうな……」


膝を縮め、次の瞬間大地を大きく蹴り上げる。亀裂が十六方位に広がり世界が震えた。


「安らかに眠れ、怪物。漆黒エンドオブ終止ブラック!!!」



ガタッ。


「いってぇ……」

俺は寝返りついでにベッドから落下し、顔を床に打ち付けたらしい。

いつの間にか眠っていたのか……。昨日は確か新発売のゲーム『False World』を攻略してて……。

おかげでとてつもない夢を見ちまった……。


「剣斗ー?起きてるでしょー?」


「はいはい、今いきますよ」


家の外から呼ぶ彼女に適当な返事をしながら俺は支度を始めていた。




どこにでも転がってるような、そんな夏の日。つむじを照りつける太陽も7日間を必死に生きる蝉達の合唱も、なんだか嫌いじゃなかった。

俺-有馬剣斗は幼馴染で彼女の結城琥珀と河川敷をひた歩いていた。


「なんかオモロいこと起きねぇかなぁ」

「またそれぇ?いっつも言ってんじゃん」

「男の夢だろ?かっけぇ勇者になって魔物を狩る。そん時はお前もお姫様抱っこしてやんよ」

「その貧弱な腕じゃ無理そう」


最近こいつは俺に対して辛辣だ。まぁ中学二年から脳みそが進歩してない俺にも非があるんだが。

俺と琥珀は幼馴染と一口で言ってもかなり難しい関係だ。お互いに両親を物心つく前に亡くしている。ほぼ同時期に孤児施設に入ったというのが出会いなのだ。それ以降琥珀は俺が心を開く唯一の人間になった。自分も深い傷を負っているのにいつだって明るい彼女に惹かれたのはきっと必然だったのだろう。

中学から卒業した今は互いに一人暮らしを送っている。


俺たちはいつも通りいくらかの会話を終え、よく行くショッピングモールに向かっていた。河川敷の坂を上がり道に出たとき、



「あんた達!!危ないよ!!!!」

「どしたの、おばちゃ-」

「キァァァァァァ―!!」


琥珀とおばちゃんの断末魔が共鳴する。眼前まで迫った大型トラックを前に、俺はアニメの主人公のように彼女-琥珀を颯爽と救うことは出来なかった。鈍い音と衝撃が痛みを追い越してやってくる。色を濃くした入道雲と浸るくらい蒼い空を見上げながら意識が途絶える。

この事故は俺の冒頭の願いを最低な形で叶えることとなる。




「………ん…?どこだ……?」


見渡す限り真っ黒なのに何故か明るいという不思議な空間だった。

俺は少し古びた椅子に腰かけている。


「そうか……俺、死んだのか」


短く、儚い人生だった。取り出して語ることもない。強いて言うと琥珀に出会えたことくらいだろうか。確かな幸せも掴むことなく、エンドロールにして3行ほどの人生が終わったのだ。


「有馬剣斗さん。ようこそ女神の間へ」


うつむかせた顔を上げるとそこにはえらい美少女が立っていた。いや正確には足元が少し宙に浮いていた。整えられた銀の髪に藍色の大きな瞳、やけに胸が強調された服とそれにまとわりついている羽衣。まさに女神といった感じの女性だった。


「今からあなたを異世界へ転生します。そこでの職業を一つ選んで頂きます」

「え、転生……?」

「あの……。この中から選んで頂きたいのです」


女神様が左手を横へスワイプさせると無数の画面が現れ、そこには職業の写真や説明がそれぞれ記されていた。


「このゴブリンとかトロールって選ぶ人いるんすか……?」

「たまにいらっしゃると聞いてます」

「聞いてるって……。女神様って複数人いるんですか?」

「はい!私はまだまだ新人で……」


どの女神もこんなにべっぴんなのだろうか。もしかしたら異世界も美少女だらけでウハウハできるのか……?琥珀には怒られるだろうが死後くらい良い思いをしても罰は当たらないだろう。そういえば……


「琥珀…俺と一緒に轢かれた女の子は……?」

「安心してください、ご無事ですよ」


微笑みながらそう言う奥に嘘は垣間見えなかった。これで心置きなく転生が出来るってもんだ。


「決めました。やっぱ男は黙って勇者-ってううぇあ!!??」


床に落ちていたバナナの皮に足を滑らせ俺は余った勢いを全部消費しながら、大転倒をした。


「なんでこんなところに!?」

「それは私のおやつで……。すみません」


おやつに女神がバナナなんて随分卑猥ですねハイハイ。おかげで膝小僧がすりむけて痛い。


「ところで職業は『鍛冶屋』でよろしいですね?」

「は!?いやいや間違って押しただけだし……」

「でももう変更できないです……。社ちょ-じゃなくて神様に送っちゃいました」


◇      ◇      ◇


「拗ねないでください、ケント様」

「だって勇者なりたかったし。魔物狩ってモテたかったし」

「なら……お詫びに一つできる範囲でお願いを叶えます」

「女神様も一緒に異世界行くってのは……?」

「可能ですけどもうそういうお話があるので却下です」

「なら一つなんか能力くださいよ」


華奢な人差し指と親指を顎に定めて首を少しひねった後、女神様は言った。


「『賢者の義眼』はどうですか?見たらその物体の魔力値や本質を見極められます。覚醒すればもっといろいろなことに使えると聞いています。鍛冶屋にぴったりですね」


やかましいわ。小馬鹿にしてきたような女神様に心でツッコミを入れたが、俺は案外悪くないと思っていた。いや、むしろ最高にかっこいいじゃないか。


「なら、それでお願いします」


「それでは、いい旅を」


両の手のひらを合わせて女神様はなにやら詠唱を始めた。次第に俺は蒼い粒子のようなものに包まれ、瞬く間に意識が途絶えた。



「社長、CODE:000無事……じゃないですけど送還しました」

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