第31話 パティスリー・メルティルビー

聖国家エルドロット。

城をのぞむ王都の、メインストリート。

ひときわ立地がいい角地に、国一番の有名スイーツ店がある。


パティスリー・メルティルビーだ。


フェルナンドの自宅からは、歩いて5分くらいのもの。

こんな凄い店が近所にあるというのは、ちょっとした自慢かもしれない。


店頭は今日も賑わっている。

自慢のケーキをお供に一服できるカフェスペースは満席のようで、外に列ができていた。


フェルナンドは、ガラス張りの店内を眺める。

接客する店員の中に、よく見慣れた人影。


甘い桃色の長髪をまとめ、チェリーピンクの瞳が屈託なく笑う。

そう─────クラリッサだ。



クラリッサ=メルティルビー。


彼は、パティスリー・メルティルビーの、店長の息子にあたる。

ちなみにお姉さんが4人いて、クラリッサは末っ子。

ただフェルナンドが知る限り、その4人のお姉さんたちは皆サバサバとして男勝りな女性である。

何なら、クラリッサの方が女の子っぽいくらいだ。


4人のお姉さんたちは、もれなくこの店で働いている。

そんな中、クラリッサは「強い男になりたい」と、ひとり傭兵業に身を投じた。


強い男に…と願うクラリッサだが、細っこい少女のような、幼さのある体つきをしている。

背も低い。150cmあるかないかくらいだ。

そんな彼は、実は今19歳だったりする。

あのふわふわ柔らかい体が、男らしくガッチリと締まる日は、多分もう来ないだろう…。


傭兵をやっているものの、やっぱりお店のことは好きらしい。

傭兵として仕事をしない日は、こうしてお店を手伝わせてもらっているようだ。



店内のクラリッサと、目が合った。


彼は小走りで店頭へ出てくる。


「フェルナンド!」


小鳥が歌うような、鈴が鳴るような。

高く可愛らしい声が、フェルナンドの名を呼んだ。


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