第32話 お店の前で
フェルナンドを見つけ、店頭へ出てきてくれたクラリッサ。
お店の従業員用の、白いレースのエプロンをしている。
こんなのをつけていると、クラリッサは本当に女の子みたいに見える…。
「いらっしゃい、フェルナンド。
ふふっ…よく寝たって顔してるよ」
クラリッサの大きく可愛らしい瞳が笑う。
「え…私の顔、寝ぼけてるかな」
「ちょっとね。
でも、疲れがちゃんと取れた感じ」
「あ、本当?
まぁ、二日続けて昼くらいまで寝たからなぁ…
クラリッサは、疲れはどう?」
「全然平気!
昨日一日休んだら、もうすっかり」
頑張り屋のクラリッサは、空元気を出して無理をしがちなところがあるが、今の言葉は信じても良さそうだ。
頬は綺麗に色づいて、血色がいい。
「えへへ…ついしゃべっちゃった。
ケーキ買いに来たんだよね。
弟さんのやつ?」
クラリッサが、訊いてくれる。
…なんて話の分かる店員なんだろう。
弟・アメリアは、メルティルビーのケーキが大好物だ。
特にベリータルトが何より好きで、ここに来ると必ずそればかり注文している。
「ベリータルトだよね。何ピース?」
「あ、もうホールで。
アメリア…あいつ狂ったようにベリータルト食べるから…」
「あははっ、そんなに?
弟さんに、ご贔屓にしていただいてありがとうって伝えて!
すぐ用意して、持ってくるね!」
フェルナンドは、値段ピッタリの銀貨5枚をクラリッサに渡し、店内へ走って戻っていく彼を見送る。
…と、ちょうどそのとき。
「あれ?こんなとこでフェリィに会うか」
聞き慣れた、無邪気な少年のような声色。
フェルナンドが振り向くと─────
「ったく、仕事でもねーのに会うかよ。
今日は厄日かもな」
笑みを帯びたその皮肉。
モナモナが、フェルナンドを見上げていた。
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