第29話 兄弟からの手紙
1階のポスト。
ギッチリ詰め込まれた、朝刊と夕刊。
取り出して、1面をちらりと見る。
…今日も各地で、魔物が元気一杯らしい。
今、この国─────聖国家エルドロットは、穏やかな春の季節。
春を繁殖期にしている魔物は多い。
そして繁殖期の魔物は気性が荒い。
おかげで、色々なところで魔物が原因の問題が勃発し、傭兵ギルドに山ほど依頼が舞い込む。
傭兵にとっては稼ぎ時、という感じだ。
新聞を取り出したあとのポストをまさぐる。
封筒が2つある。
手紙だ。
「あぁ…」
フェルナンドは、宛名「フェルナンド=フランシスカ」の文字を眺める。
この筆跡だけで誰からの手紙か分かるくらい、見慣れた字だ。
差出人は──────
1通は、バティスタ=フランシスカ。
もう1通は、アメリア=フランシスカ。
何を隠そう、フェルナンドの兄と弟である。
フェルナンドは、その場で手紙の封を切る。
まず、兄・バティスタの方。
****
フェリィへ
生きてますか?
たまには連絡ください。お兄ちゃん寂しいです。
兄より
****
生きてますか…って。
ジェスターもよく、生存確認をしに来るし…
自分は、そんなに生きてるか不安になるような奴なんだろうか…。
この雑で大きな字の、短い手紙。
まさにバティスタの手紙です、という感じだ。
さて…もう1通。
とんでもないクセ字。弟・アメリアの手紙だ。
こちらは速達だったらしく、切手が沢山貼ってある。
そんなに急ぐ用事なんだろうか。
****
フェリィ
巨大ケルベロスを倒したんだってね。
さすがフェリィだよ!
フェリィが持ち帰ったまだらの花の研究が終わったから、すぐ来て欲しい!
来る時は、石化しちゃった剣を持ってきて!
あと、パティスリー・メルティルビーのケーキ!お土産によろしくね☆
待ってます!
アメリア
****
…。
…え?
まだらの花を昨日持ち帰って、今日にはもう「研究が終わった」?
は、早すぎる…。
アメリアは、国立の研究所に勤めている。
魔法や魔物の研究に明け暮れる毎日を送る、一線級の研究者だ。
研究が好きなのは知っているが…ちゃんと食って寝てるのか?
兄としては、若干心配ではある。
ちなみにバティスタは、国付きの戦士───聖騎士をやっている。
しかも、聖騎士団の副団長。
文句無しのエリートである。
二人とも出来すぎた兄弟だ。
一介の傭兵をやっているだけの自分が、とても小さく思えるが─────
でもフェルナンドは、この仕事が好きで、今の生活を気に入っていた。
あまり変わるつもりにはなれない。
フェルナンドは自室へときびすを返す。
アメリアの所へは…もう今日は夕方だし、明日の午前あたりで行けばいいか。
…あと、たまにはこちらからもバティスタに連絡するようにしよう…。
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