テンプレ54 「村の防犯対策」

 ダンジョンマスターを打ち倒したイスズ一行は、ジョニー号を迎えに森を出て再び魔王城の前へと戻っていた。


「ところで、イスズくん。案内役だから、言っちゃうけど、こっちに戻るのは無駄だと思うな~」


 イスズにとって、それはジョニー号を見捨てろというのと同義だった為、思わず眉根が動く。


「どういうことだ?」


 言葉自体は静かだったものの、そこには返答次第ではただではおかないという殺気が含まれていた。


「それはね~」


 ルーの説明によれば、ジョニー号を連れて行くには当然、魔物の村までの転移ということになるのだが、今まで転移を担当していたフォーランはイスズの言葉通りにすでに、村外れにエルフの女の子と隠居生活を始め、後を任されたゴブリンは勇者パーティの1人が今頃倒しているだろうということだった。


「そうか」


 しかし、その説明でイスズが足を止めることはなかった。



 イスズたちがテンペストを地下牢に閉じ込めた頃、魔物の村、テラスに1つの怪しい影が近づいていた。


「ここが魔物の村ねぇ。可愛い女の子はいるかな?」


 その影の男はフードを目深に被ってはいるものの、その眼光は鋭い。

男は狩人の目つきで村の中を覗きこもうとして、止めた。


「いやいや、その前に勇者のお仕事をしないとね。勇者パーティを外されたらモテるもんもモテなくなるってもんだ」


 そう独り言ちてから村へと静かに入っていった。



 男はまるで下調べを済ましているかのように確かな足取りで、一軒の家の前まで進んだ。


「ここが、村長の家だな。あとは村長を再起不能にすればオレの任務は終了。あとは好きにしていいとリミットは言っていたな」


 男はフード付きコートの中に隠していた矢筒を背負い、弓を構える。

 家の扉を勢い良く開けると、弓を引きつつ、名乗りをあげた。


「オレは勇者パーティの1人! 恋の狩人!! ハンターのシグナル!! 村長、あんたに恨みはないが、ここで消えてもらう!!」


 その言葉と同時に矢が放たれた。


「ほら~、ちゃんと来たじゃないですか! これで信じてくれました?」


 シグナルは新たに村長となったゴブリンしか見ておらず、その隣に座っていた人物には特段の注意を払っていなかった。


 その人物が不敵な笑みを浮かべると、それは突然地面から現れた。


「巨大な手甲ッ!?」


 それは手の形をした機械。そして矢を難なく弾く。

 そんな芸当が出来るのはこの異世界でもただ1人しかいなかった。


「こんにちは。せっかくだからボクも自己紹介するね。ボクはフェデック。ただのロボットオタクだよ」


 ニコニコとこちらに笑みを向ける美少年を前にシグナルは戸惑っていた。

 明らかにおかしい巨大な手を出現させるほどの猛者にも関わらず、この美少年からは少しの強さも感じられなかった。


 シグナルは次の矢を射るべく、矢筒に手を伸ばす。


「あっ、ちょっと待ってください!!」


 その声にピクッと手が止まる。


「何も分からないままでは困るでしょう? だから説明をちょっとしますよ」


 フェデックは椅子から立ち上がると、営業をするサラリーマンのように一礼してから説明を始めた。


「まず、ここにシグナルさんアナタが来ることは前もって分かっていました。それはこのドローンです!」


「はっ!!」


 シグナルの背後にいつの間にか、空を飛ぶ機械が現れる。

 攻撃される可能性を考え、シグナルは横に跳び、距離を取り、弓を構える。


「あ、それは攻撃する機能はついていないです。ですけど」


 フェデックは手元から小さなモニターを出して見せる。

 そこには室内の様子が映し出されている。


「こうして、周囲を監視することができます。本当はイスズさんたちがいつの間にかいなくなってしまったので捜索用に作ったのですが、思いがけず役に立ちましたね」


 モニターを仕舞うと、次にスイッチを取り出す。


「さてさて、お次はこちらの腕型の防護壁です! 予め設置しておけば、スイッチひとつで出し入れ可能! 基本的には地下に収納されているので、1階なら場所も取らずどこでもつけられます。是非防犯にどうでしょう!!」


 ここまでで、シグナルはようやく気づいた。

 今までのフェデックの説明は自分にしていたものではなく、ターゲットである村長のゴブリンに対してしていたものだということに。


「次は、侵入者撃退用のアイテムを紹介しますね!」


 にっこりと微笑むフェデックだが、シグナルにはそれが残虐な悪魔の嘲笑に見えた。

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