テンプレ53 「勇者パーティ ダンジョンマスター」

「イスズ、もう3メートル先だ。さらにそこから斜め右へ3m。さらに左へ1m。そこだ。そこの真下に居るはずだ」


 共にダンジョン内へと入っていたアリに、勇者パーティの居場所を地上から探させていた。


「本当に合ってるんだろうな?」


「中で感じた魔力と同じだから間違いないぜ」


 イスズは地面を睨みつけると、続いてクロネへと指示を出す。


「ここに穴を開けろ。下の洞窟に届くまで目一杯にな」


 断るという選択肢を与えない様な、鋭い物言いにクロネは黙って従った。


 下まで続く穴が穿うがたれるが、イスズはさらに注文をつける。


「これから降りるから、穴の端をハシゴ状にしろ」


 クロネはコクリと頷くと、穴の周囲は形を変え、誰もが降りられるようになった。


「よし。良くやった」


 イスズが満足そうに頷くと、恐る恐るといった感じにヤマトが声をかける。


「ねぇ、イスズ、今からやろうとすることが、分かっちゃったから言うけどさ。ダンジョンをそういう風に攻略するのは、その、ロマンに反するとかって思わない?」


「ロマン? ああ、ロマンなら分かるぞ。重要だよな」


「そ、それなら」


 イスズはニヤリと凶悪な笑みを浮かべ、それを見たヤマトは悪寒を感じ、数歩後ずさった。


おとこのロマンである、トラックと引き離そうとしたんだ。ロマンを分かっていないのはヤツの方だろ? そんなヤツにわざわざ付き合ってやる義理はないッ!」


「あ~、ははっ。ですよね~」


 ヤマトは乾いた笑い声をもらし、それ以上何も言わなくなった。


「用件は以上か? なら俺は行くぞ」


 イスズはアリを片手に勢い良く穴へと飛び込んだ。


 すぐに下へと辿り着いたようで、話声が聞こえ始めた。


「誰だ、貴様! どうやってここへ!? 黙ってないで何か言え! グホッ」


 地面にいるヤマトたちにすら、うっすらと振動が伝わってきた。


「ちょっと、待て! オレ様は本来、肉弾戦は出来ないんだ。ダンジョンを攻略してここへ辿り着いた時点でそちらの勝ちだ。ゲハッ!!」


 再び地面が揺れる。


「も、もう、オレ様の負けだがら、殴るのは止めろ。いや、止めてください! 宝とかも差し出しますから。ゴフッ!!」


 三度目の揺れ。その後に声が聞こえることはなかった。


「えっと、これ、生きてるかな?」


 ルーは苦笑いを浮かべながら、ヤマトとクロネを見るが、2人はサッと視線を逸らした。

 そんな様子を見て、ルーは両手を合わせ、冥福を祈った。


「キミは頑張ったと思うよ。だからイスズを連れて来たボクちゃんを恨まないでね。あとあまりに不憫だから、あとで勇者パーティでダンジョンマスターのクロスっていう相手だったって紹介はしておくよ」


 ルーが手を合わせていると、ハシゴ状になった穴からイスズが這い上がってきた。

 その表情はいつもの多少不機嫌そうな表情へと戻っており、ヤマトとクロネは安堵した。


「安心しろ。殺してはいないぞ。だいたい、異世界に転生した程度でいきなり人を殺せるか! 俺は殺人者じゃない、トラック乗りだからな」


 しかし、一部始終を見ていたアリは後に語った。


「あのときのイスズには情けも慈悲もなかった。一欠片も。相手が生きていたのは運が良かっただけとしか思えない」

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