テンプレ42 「主人公VS魔王 その2」

 魔王テンペストは命乞いのセリフを口にしながらも、自身の水の魔法を応用し止血を済ませていた。

 あとは水の膜を展開さえすれば、『元』勇者を倒すことは叶わないが、この場から悠々とハーレム少女を引き連れて立ち去ることはできる。そんな算段を考えていた。


 視界の端に、明らかな異世界人のイスズが近づいてくるのは捉えてはいたが、絶対防御はすでにいつでも展開できるようになっており、歯牙にもかけていなかった。


「攻撃しないということは見逃すということでいいかな? 『元』勇者ヤマトよ」


 テンペストは余裕を取り戻し、芝居がかったセリフで、まるで煽るように話す。


「ッ!!」


 そのセリフで気を取り直したヤマトはすぐさま一撃を放つが、水の膜の前に防がれる。


「フ、フハハハッ! もはやこの状態なら、貴様の答えを聞くまでもなく、逃げられそうだな。なぁ! 『元』勇者よッ!!」


 テンペストは高笑いをしながら立ち上がり、ヤマトの悔しそうな顔を眺めながら出口の扉まで進み始めた。


「トップが仲間を見捨てて、逃げていいわけねぇだろッ!」


 すぐ近くから聞こえた低い男の声に、テンペストは絶対防御があるにも関わらず身構え、緊張に体を強張らせた。

 次の瞬間、イスズの拳が顔面へと向かって振るわれた。

 しかし、水の膜の防御の前に拳は包まれ威力を殺される。


「うぅぉらぁぁッ!!」


 歯を食いしばり、力任せに振りきった拳は膜ごと押しのけ、テンペストを壁へと叩きつける。


「いきなりで驚いたが、所詮この防御を打ち破ることなどできん!! これを解かない限り貴様らの攻撃は全て無駄なのだよぉ!!」


 殴っても壁に叩きつけてもダメージを与えられない相手に、イスズは一歩も怯むことなく、追撃を行うべく地を蹴った。


 イスズは吹き飛ばした魔王へ間髪入れず近づき、さらに拳を叩きこむ。

 テンペストは水の膜に守られながらも再び壁へと激突する。


「我が完全に守りに徹した今、何をしても無駄だとわからんのか!」


 ヤマトから受けた傷以外1つのダメージも受けていないテンペストは余裕を取り戻しつつあり、セリフの端々にもそれは滲んで見えた。

 確かにイスズが与えたダメージはせいぜい、壁を傷つけた程度である。


 しかし、そんな事は少しも気にせず、再びテンペストに向かって拳を振るった。


「さっきからうだうだとうるせぇ!! 無駄なことなんかこの世にあるかぁ!!」


 イスズの表情に諦めや絶望といったものは一切なく、炎のように熱く燃えるような覚悟だけがみてとれた。

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