テンプレ43 「群れると弱く見える」

 イスズがテンペストと戦っている間、アリを受け取ったクロネは、敵の集団を睨みつけていた。


 それと同時にアリも敵の集団を見つめ、人魚の美少女以外は男だけだということを確認した。


「男だけなら手加減はいらないな。おい。クロネ。オレに魔力を流せッ!!」


 アリの指示にコクリと頷き、クロネの魔力が杖へと流れ出す。


「久々に魔力、キターーッ!! しかも美少女のッ!」


 アリが高らかに叫ぶと、体が光に包まれていく。


「待たせたなッ。ここからはオレの本気を見せてやるッ!!」


 アリの声がまるで機械のように無機質に響き渡る。


「魔力リンク開始。シンクロ率……10%、……20%、……50%、……100%」


 パーセンテージが上がっていくのと共に、アリの体が光に包まれていく。


「シンクロ完了!! 魔力及び五感リンク接続終了ッ!!」


 アリは今までと変わらぬ木の杖だが、どこか気品に溢れたオーラをかもし出していた。


 アリを驚愕の眼差しで眺めながら、クロネは呟くと共に、まるで何十年も使って来たかのようにしっくりと自分の手に収まる杖を数度握り直した。


(クロネ、聞こえるか!?)


 いきなり自身の中に聞こえてきたアリの声に驚き、ビクッ! っと肩を震わせた。


(あ、ごめん、ごめん。今のこの状態なら、オレとは以心伝心ってヤツなんだよ。それから、敵を見てみろ)


 アリに促されるまま、集まった魔王の兵たちを見ると、そこにはRPGの画面みたいにそれぞれのステータスが表示されていた。体力、魔力、装備の効果など必要に応じて閲覧することが可能であった。


(これが、オレの見ている世界だ)


「……すごい」


 相手の情報が得られるというのは、この世界ではかなり高度な魔法や技術、経験が必要であり、さらにそれを持ってしてもここまでの完璧な精度は得られない。


(オレの本気はまだまだこれからだぜッ!)


 アリの言葉と共に、クロネから僅かに魔力が吸い取られる。


(バニッシュ!!)


 呪文を唱えると、兵士たちに付与されていた魔法が全て消し飛んだ。


「……ッ!? あれだけの魔力で、広範囲に付与魔法破壊を」


(生き物が身に着けているものを外す魔法! 女の子の服を優しく脱がす魔法の応用だ!)


「……最後は聞きたくなかった」


 クロネはジト目をアリに向ける。


(これで、あとは楽勝だろ。クロネッ!)


 この状態ならば、次にアリが何をしようとしているのか手に取るように理解できたクロネは、頷くと、アリと共に呪文を唱えた。


「「グラビティ!!」」


 本来ならば一箇所にしか効果を及ぼさないはずの魔法だったが。


(ワイドエリア!)


 アリの力によって、その効果範囲は兵士たち全員に余すことなく及んだ。


 ズシンッ!!


 強い力で重力が掛かり、テンペストを助けにきたはずの兵士たちは人魚少女以外、全員が地面へと伏した。


「……本当に魔法が広がった」


 意識的にはこれから何が起こるか理解していたが、いざ目の前にしてみると、その威力の凄まじさに感嘆の息を漏らす。


 チラリと最後に残った美少女人魚のルイをクロネが見ると、彼女は勝手にひれ伏し、他の兵士たちと並んだ。


 伝説の魔杖と『元』魔王という最強タッグにより兵団は一瞬で壊滅し、クロネは優々と一番近くで倒れている兵士に腰掛けると、イスズとテンペストの成り行きを見守ることにしながら、魔杖アリエイトの伝説のことを考えた。


(ステータス看破に魔力消費の効率化、付与魔術及び装備破壊、魔法の広域化。魔法使いにとってはどれもが欲しいサポートの魔法。……あながち『持つ者が望む魔法を使える』はガセではないみたい)


 そんな考えを巡らせていると、


「おっ!! イスズがなんかするみたいだぞ!」


 アリの声で、クロネはイスズの戦いへと意識を切り替えた。

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