テンプレ11 「マッチポンプ」

 トラックにあるまじき静かな排気音を立てて進むジョニー号。

 その運転席にはその様子を悲しげな瞳で見ながらハンドルを握る屈強な男。


 トラック乗りのイスズは未だにジョニー号が魔力と電気のハイブリッド車に変えられたことに落ち込んでいた。

 

「おい。イスズ、そろそろ都市に着くぞ。元気だせよッ!」


 アリの声にも大した反応を見せず、ノロノロと徐行運転でジョニー号を走らせる。


 コンコン!


 そのとき、窓がノックされ、クールイケメン姿のアリが窓を開ける。


「どちらさま?」


 窓をノックしたフェデックは頭に?マークを浮かべ、アリに問いただした。


「ああ、これはオレの力で――」


 簡単にアリは説明すると、今度はフェデックが、話を進める。


「昨日、魔王を倒すより先に大都市でやることがあるって言ってましたよね。でしたらイスズさんが一番悲しんでいたエンジン音はその間に直しますよ~。さすがに今のイスズさんを見ていると、ちょっと不憫でなりません」


 苦笑いを浮かべつつ言うフェデックの言葉を聞いたイスズの目には生気が戻り、身体中に覇気が巡る。


「フェデック、ジョニー号を頼んだぞ!」


 それからはあっという間に大都市までジョニー号を走らせた。



 大都市『エスパダ』

 石造りの建造物が目立つ、この世界で一番大きな都市である。

 文化・経済ともに発達し、芸術にも力を入れていることから都市の発展度が見て取れる。

 その証拠に家屋一軒一軒ですら芸術品のようなおもむきがあり、最高の景観を見るものに与えている。

 中でも街の中心に見える円形闘技場は観光客に人気のスポットでその興行だけではなく闘技場自体の建造を見物するだけでも価値があると言われるほどであった。


「ま、そんな、この都市の情報は関係ないわな」


 ヤマトに説明を受けるイスズだったが、彼らはそもそも、その門すらくぐれていなかった。


「おい。入るのに金が必要なんて聞いてないぞ!」


 異世界ものではお約束の街に入るのに金がいるという状況に、イスズが『元』勇者ヤマトと『元』魔王クロネに非難の目を向けると、


「あ、アタシだって知らなかったわよ! 前までは顔パスで入れたんだから!」


 ヤマトは文句を言いつつ、腕を振り上げ怒りを表す。


「……ボク、いや、ワタシなんてそもそも顔を見られたら攻撃されていたから」


 クロネは遠い目をしながら落ち込んだ。


「なるほど。『元』になった弊害へいがいって訳だな」


「もちろん、オレも金なんて持っていないぞ!」


 イスズは金を払えと言った門番を睨みながら、少し考えて、ポンッと手を叩いた。


「良し、門番を倒そう!」


「ちょっ! 待ちなさいよ!」


 ヤマトはイスズの腕を両手で自身に引き寄せるように掴んで引き止める。

 普通ならば柔らかな双丘が当たる展開だが、いまは鎧のおかげでゴツゴツとした感触しか伝わってこない。そのことに満足げなイスズは足を止めヤマトの言葉を聞く。


「どうした? なぜ待たなくてはいけないんだ」


「いきなり門番倒したらアタシたちお尋ね者になるわよ!」


「心配するな。その件に関しては考えがある」


「だからって、いきなり行動に移すな。アタシたちに教えてからにしてよッ!」


 イスズは、深いため息をつき、面倒そうに答えた。


「一番最初のときにトラックの中で、何かアクシデントがあったときの対処はクロネには説明したんだが、まぁ、作戦の成功率を上げるためにお前にも説明するか」


「ちょっと、どういうこと。もしかしてアタシが荷台に入れられてる間にッ!?」


「お前、鎧がデカイんだから仕方ないだろ」


「あんたがこの装備にさせたんじゃない!!」


 ヤマトは怒気に頬を紅潮させながら声を荒げる。 


「小さいことを気にするな。それより一度しか言わないから良く聞け」


 イスズが立てた作戦は、門番を倒す。元魔王のせいにする。それを元勇者が追っ払う。感謝され中に入れてもらえる。というようなものだった。


「最悪混乱に乗じて俺だけは中に入れる!」


「な、完全にマッチポンプ!」


「俺、中入れる。お前人気出る。クロネ悪名轟く。Win・Winの作戦じゃないか」


「そうだけど、いいのかなぁ……」


 ヤマトが不安げにしていると、いつのまにかイスズの姿はなく、視界の端にはすでに倒れた門番の兵士の姿があった。


「モンスターが現れたぞ!!」


 あえてイスズは大声で呼びかけ、注目を集める。


「クロネ、あとは上手くやってくれ! 合流場所はジョニー号だ」


「はいっ! わかりました!」


 クロネはローブから顔を顕わにし、その角を見せつけつつ敬礼して答えた。


「なんかあの子キャラ変わったわね」


「お前も上手くやれよ。ヤマト」


「あんた、本当に奴隷の解放なんてするの?」


「ああ、もちろんだ。最優先事項と言ってもいい。ちゃんと手柄はお前のもんだ、心配するな」


「まぁ、アタシもあんな外道な商売は嫌いだからいいけど。行けたら後で合流するわ」


 イスズはアリを持ちつつ門の中へ、ヤマトは門の前に立ちはだかるように走り出した。

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