テンプレ10 「巨大ロボット」

 イスズは再びトラックのジョニー号を走らせる。

 

 ゆっくりと一軒家へと近づき、トラックを停める。


「ここが転生者のアジトって訳か……」


 イスズがトラックから降りると、


「へぇ~~。これ、この世界で作ったヤツじゃなくて持って来たトラックですね」


 子供特有の甲高い声がトラックの側面から聞こえてくる。


 イスズは慌てることなく声の方向を確かめると、そこにはまだ年端もいかない美しい少年が、かぶりつくようにジョニー号を見ていた。

 

 大切なジョニー号に傷でも付けられたらたまらないと、「おい。傷が付くだろ離れろガキ」と声をかける。


「大丈夫ですよ。このボクが傷なんか付ける訳ないじゃないですか」


 にこやかな笑顔を振りまきながら振り向いた少年はまさしく美少年の称号が相応しい出で立ちだった。

 サラサラの金髪はショートで切りそろえられ、「実は女の子です」と言われても信じてしまいそうな幼さの残る端正な顔立ち。体躯はほとんど筋肉などついておらず、スラリとしている。唯一の難点をあえて挙げるならば同年代の男の子と比べても低いであろう背丈のみだ。


「いやだな~。そんな怖い顔で睨まないでくださいよ。ほんとに傷なんてつけてないんですから~」


 ひらひらと手を振りながら無実だと訴える。


「お前、あのロボットといい、子供らしくない喋り方といい。転生者だな」


「はい。あ、申し送れました。ボクはフェデック。夢はロボットに乗って戦うことです」


「ロボットに乗って戦うだと? 相手は?」


 その質問にフェデックは歳相応の子供のように目を輝かせて答えた。


「もちろん。ロボットですよ!」


「敵になりうる相手にもロボットを渡すのか? そんなことしたら戦争になるぞ」


「そんなつもりはないですけど、戦争になればロボットの有用性が手っ取り早くわかってもらえると思いますし、いいんじゃないんですか」


 イスズはこの少年フェデックは何の悪意もなくただ単にロボットに乗りたいということはわかった。だがしかし、悪意がないだけに始末が悪いと感じた。


「ふぅ、そうか。なら俺も名乗らせてもらおう。銀河イスズ。夢は転生者をぶちのめして、現代のトラック事故を少なくすることだ!」


 イスズは威圧するようにフェデックの前に立つと、「覚悟しておけッ!」と言い放った。



「いいですね。いいですね~!! 初の実戦ですよッ!」


 金髪の美少年、フェデックはイスズの予想とは裏腹に目を輝かせて一軒家へと戻っていく。


 イスズはまず助手席の杖に戻ったアリを取り出し、次に「さて、世界の危機ってやつになりそうだし、ヤマトでも呼んどくか」と思いイスズはジョニー号の荷台を開ける。


「おいっ…………」


 イスズの呼びかけに応えるものはおらず、荷台の中には、鎧姿のヤマトに潰されたクロネが転がっていた。

 先ほどロボを見つけた際の急ブレーキによって起きた悲劇なのだが、イスズは微塵も自分の所為とは思わず、「チッ、使えんお荷物がっ」と呟いた。


「荷物? そこに何か入っているんですか?」


 そのとき、フェデックの声が聞こえてきた。


「お待たせしました。今からボクの試作機1号が行きますから、お相手お願いします」


 一軒家の隣に位置していた巨大ロボットの目が光り動き始めた。


「どうですか! ボクの試作機『G』です」


 ロボットは黒光りするメタリックなボディに触覚を思わせる頭上についた2本のアンテナ。


「おいおい。こりゃ、名前も含めて某アニメのロボットだろ。大丈夫なのか?」


「はぁ? どうみても害虫の方だろ」


 イスズはアリを肩に構えると、


「俺は雑誌で潰す派だったが、お前は?」


「へっ? Gのことか? オレはスプレーだったけど」


「ふんっ。軟弱だな」


「いや、仕方ないだろ」


「うるさい。行くぞ」


 『G』と呼ばれた試作機の前へと踏み出していく。


「魔力と電気をエネルギーにしたこの機体。しかもエネルギーはソーラーパネルで日中なら常に動作可能です。太陽は出ているか?」


 ロボットは頭上を指差すように稼動する。


「データ収集の為、よろしくお願いします」


 フェデックの明るい声が周囲に響くと同時に戦いの火蓋が切って落とされた。


「そんな暇あるかな」


 イスズは不敵に笑い走り出した。


「Gの対処方は一撃必殺。動く隙すら与えん!」


 人型ロボットのヒザ、腰と足場にし、胴体部にあるコックピットへアリを叩きつけた。


 ガシャリと金属がひしゃげる音。


「え、えぇ~~」


 フェデックが座るコックピット内部に外の光が入り込む。

 しかし、すぐにその光はイスズの手によって遮られる。


 ガギギギッ!


 無理矢理にハッチをこじ開けようとする様は、内部から見ている分にはホラー以外の何ものでもなかった。


 そしてとうとう扉が開かれる。


「こ、こわっ!」


 そこでフェデックはハッと気づき手に力を込める。


「くっ。振り落とします!」


「遅ぇ!」


 イスズの一撃がフェデックの意識を刈り取った。



「う、う~ん」


 フェデックが目を覚ますとそこにはバラバラに解体されたロボットが転がっていた。


「まぁ、仕方ないですね。負けてしまいましたし……」


 周囲を悲しげに見回すフェデックを見つけたイスズは近寄って脅すような声音で語りかける。


「おい。俺が勝ったんだ。もうロボットを作っても無駄なのは分かったな。これで戦争を起こしてでもロボットを使うなんてバカな考えは捨てろ! いいな」


「……わかりました」


 数秒の沈黙の後、フェデックは急に立ち上がり、笑顔を見せた。


「さて、ボクの夢は潰えたけれど、この生活が終わるわけじゃないですし、元気出していかないと! 良かったら今日はもう遅いですし、ボクの家に泊まって行きませんか?」


 屈託のない表情でそう言うフェデックに裏はないだろうと踏んだイスズは了承すると、荷台からお荷物という名の『元』勇者と魔王を引っ張りだした。


「えっと、他にも人が居たんですか?」


「ああ、『元』勇者と魔王だ。場所がなければ俺はトラックで寝るが」


「部屋はいっぱいあるんで大丈夫ですよ。……勇者か」


 ぽそりと呟いた最後の言葉を耳にする者はいなかった。



 翌朝起きると、イスズたちの前からフェデックはジョニー号の近くで佇んでいた。


「何をしている?」


 その手には様々な工具が握られ、額にはオイルの汚れが付着している。


「あっ。トラックの燃料が少なかったので、魔力と太陽光をエネルギーとしたハイブリットEV車にしておきましたよ! どうです! すごくないですか!?」


 その言葉を聞いて、イスズから血の気が引いた。


 風のように速くジョニー号へ駆けつけると、周囲をぐるりと一周する。


「み、見た目は変わっていないが……」


 イスズは恐る恐るエンジンをかける。


「ッ!?」


 EV車特有の何ともいえないふわっとした音に愕然とし、イスズは運転席から力なく降りた。


「クソッ! トラックはそのバカみたいなエンジン音も含めてトラックなのに……。クソッ!!」


 イスズはフェデックの胸ぐらを掴むと、脅すように、「元に戻せ」と伝える。


「でも、元に戻すと大して走れなくなりますよ? 途中で置いていくことになると思いますけど、それでも良ければ元に戻しますよ」


「うぐっ」


 イスズは言葉に詰まり、様々な思いがぐるぐると頭の中を巡る。


「このままで、いい」


 苦渋の決断を果たし、胸ぐらから手を離した。


「それとですね! 戦争を起こすようなロボットがダメってことなので、勇者ロボを作ろうと思います! ですから、元とはいえ、勇者がいるイスズさん達を観察させてもらいます!」


「そんなこと、俺が許すと思うのか?」


 イスズはフェデックを睨みつけるが、そんなことは一切お構いなしに、フェデックは言葉を続ける。


「大丈夫です! 勝手に着いて行って勝手に参考にさせてもらうのでッ!!」


 そう言うとフェデックはいつの間にか組み上げられていたバイクに跨り、颯爽とその場を立ち去った。


「あっ! 待て、この野郎ッ!!」


 すでにイスズの怒声は届かない位置にまでフェデックは去っていた。


「せめて、エンジン音だけは直させてからにすれば良かった……」


 イスズの呟きだけが虚しく残った。

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