1-2 怪談『人形屋敷』
『
考えてみればちょっとした偶然なんですよ。
この居酒屋から遠くないところに、一軒の屋敷があるんです。木造の立派な日本家屋です。ここら辺は開発が盛んになる以前は田舎ですから、まだ畑が広がっていました。屋敷もまたそんな時代からそこにあったという話です。
この屋敷にはいわくがありました。通称”人形屋敷”と呼ばれています。
その家の最初の主が人形のコレクターだったらしく、つけられた名前のようですね。今もなお屋敷には人形が残っているんだとか。
人形屋敷に招かれた人は口々にいうそうです。気味が悪いと。
屋敷には所狭しと人形が鎮座していました。またこんな話もあります。家主は新しく人形を仕入れてくると、近所に自慢するそうです。何かと家に上がりこんできて人形の自慢話をするもんだから、いよいよ鬱陶しくなって無視するようになったんだか。
するとある日ぱったりと家主を見かけなくなりました。
不思議がったひとりのご近所さんが人形屋敷を訪ねると冷たくなっている家主を見つけたそうです。
死因は何? なぜ死んだのか? 一体いつ死んだのか?
何もわからなかったそうです。通報した第一発見者は多くを語りませんでした。ただ繰り返し呪文のようにいうそうです。
「あれは自殺じゃない……人形がやったんだ!」ってね。
人形の長い髪の毛がケータイストラップみたく死んだ家主の首に絡まっていたんだとか。もしそうだとしたなら、家主は人形の逆鱗に触れてしまったというのでしょうか。ところが彼のいう人形なんてどこにも見つからなかったそうです。それどころか屋敷に大量にあった人形も消えてしまったとか。
結局、家主は自殺として片付けられました。
家屋はお祓いして、綺麗にしてからそんないわくがあったことなどすっかり忘れ去られていました。その後、人形屋敷には物好きな人が入れ代わり立ち代り引っ越してきたといいます。
ところが屋敷でまた事件が起きたんです。屋根裏で自殺している人間の白骨化死体が見つかったそうなんですね。新しい家主が見つけたそうです。あの日、人形収集家が殺されたときには見つからなかった秘密の屋根裏です。
そして死体のそばには、あの日忽然と消えてしまった不気味な日本人形が数体そばにいたっていうんです。屋敷の経緯を知った家主はいよいよ恐ろしくなって、体ひとつで夜逃げしてしまったとか。不気味がった近隣住民が近所の寺のお坊さんに泣きついて屋根裏の人形を供養したそうです。
人形が万が一、また人を殺めるようなことをしないよう手厚く供養されたと聞きます。
だけれど、そうしてお坊さんが人形を持って帰ってくると、人形屋敷の中庭に人形が大勢立っていたといいます。
まるで仲間を取られたことに憤ってるかのような人形達がじっと――――
』
「のわぁああああああああっ」
どさっと、何かが倒れるような音がした。会場の人間全員の視線が集中する。骨河係長だった。骨河係長は怪談の途中に腰が抜けてしまったようだ。その瞬間、どっと会場は沸き立った。張り詰めていた緊張感がほぐれた。空気は和やかだった。
「係長ダサーイ」「かっこわるーい」
きゃははは、と黄色い声に包まれる。係長は沸々と憎悪の念に駆られる。
「くそうっなんて話をするんだ、縁起でもない!」
「……もう終わりですね」
物部耳子は悲しげな顔でいった。ムードが壊れてしまったためか、それまで、とばかりに広げた風呂敷を畳んでしまった。当然飲みの席からはブーイングの声があがる。
「えー!」「どうしてやめちゃうの?」「これからだっていうのにー!」
「……」
それに対して、骨河係長はもうたくさんだと思っていた。
これ以上不気味な怪談は聞きたくない。それにしても、骨河係長がずっと許せないのは、尻餅をついた彼を見て、いつまでも物部耳子がニヤニヤと笑みを浮かべていることだった。
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