第4話

  11時半頃に出勤して、12時からレジに入った。平日のこの時間は、自分も含めたアルバイトのスタッフ2名と店長で回す。とはいえ、店長はシフトや商品の管理などの事務処理に追われているので表に出てくることはあまりない。だから、実質店舗を切り盛りするのはバイトの2人ということになる。


「平和だなあ」


 ぼんやりとレジに立つ、同い年の相方がつぶやく。


「いいことじゃないか」


 と、僕が返す。現在、店内に客の姿は見当たらない。12時台は昼食を買いに来る客で賑わう時間帯だが、それも前半の30分くらいで、後半の30分は基本的に今のような穏やかな時間が流れる。それにしても今日は人が少ないけれど。


「お前は、忙しいほうがいいのか?」

「いや、そういうことじゃないんよ。というか、もっと派手な出来事をだな」

「派手な出来事?」

「そうそう。例えば突然コンビニ強盗が現れて、そいつを俺が勇猛果敢に撃退するとか!」

「発想が小学生だ」


 もしテロリストに学校が占拠されたら、と同じレベルである。そんなことはまず起こらないし、遭遇したらしたで理想通りに動けるはずもない。恐怖心が勝って石のように動けなくなるのがオチだ。


「つまらんなー、お前は! お前の冷めちゃったその感じが!」

「はあ?」

「確かにお前さんの言うことも一理ある。だがな、こういう少年の心も時に必要なんだよ。わかるか?」

「はあ……」


 面倒なやつめ。


 そう思う自分は、どんな顔をしていることやら。


「代わり映えのない日々だぜ、今は。だからこそ、必要なのは冒険だ。アドベンチャーだ!」

「……だとしても、コンビニ強盗だけは御免だよ」


 そこまで話して、ふらりと1人の客が入ってきた。当然ながら、コンビニ強盗ではなさそうである。


「いらっしゃいませー」

「いらっしゃいませー」


 2人揃って条件反射で出てくる、形だけの接客用語。さっきまで熱く語っていた相方は、すぐに折り合いをつけた表情で目の前の現実へと戻っていく。


 そして、店内の放送で流れる時報。


 午後1時をお知らせします。

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