第43話 選んだその先

「……それで、結果として俺は……告白しちゃったわけなんだが」


 待合のベンチに少し距離を開けて俺と留奈は座っていた。留奈は俺の方に顔を向けようとしない。


「……今ので、いいのか?」


 今一度俺は留奈の方を見る。留奈はうつむいたままだったが、少しずつ顔を上げると、俺の方に顔を向けてくる。


「昭彦は、どうなの?」


 留奈は真剣な様子でそう聞いてきた。どうなの、って聞かれても……先程言ったのが俺の本心であるわけだし、同じことをもう一度言えと言われても逆に困ってしまうのだが。


「……俺の気持ちは、さっき言ったことが、全部だから」


 正直に俺はそう言った。留奈はしばらくの間俺のことを不思議そうに見ていたが、なぜか急に嬉しそうに微笑んだ。


「そっか。なら、いいんじゃない」


「え……い、いいのか? その……恥ずかしい話だが、俺はお前のこと……留奈って認識してなかったわけなんだが……」


「別にいいよ。さっきも言ったけど、昭彦が鈍感だってことは分かってたし。むしろ、こうなるって分かってて、こういうことしたわけだしね」


「……その、里奈には何か言ったのか?」


 少し聞きにくかったが、俺はそう切り出した。留奈は別になんのことはないという感じで俺のことを見ている。


「うん。里奈ちゃんには言ったよ。里奈ちゃんのフリして昭彦のこと待ってるね、って」


「え……そ、そうなんだ……里奈は?」


「う~ん……苦笑いしてたかな?」


 留奈はそう言っているが、むしろ、そんなことを留奈が里奈に言ってしまっていることが驚きだった。


 そんなことを言われて留奈はどういう気持ちだったのだろうか……そもそも、里奈は俺のことを――


「別に、里奈ちゃんに悪いとか、そういうの、考えないから」


 と、俺がそんなことを考えていると留奈がはっきりとそう言った。まるで俺がそう考えていたのかを見透かしているかのようなタイミングだった。


「え……そ、そう……か?」


「当たり前じゃん。だって、昭彦は一人でしょ。で、私達は二人……そうなると、昭彦がどっちかを選択するなんて当たり前じゃん」


「そ、それは……そうなんだけど……」


「それとも、両方選ぼうなんて思ってたわけ?」


 留奈にそう言われて俺は首を横にふる。無論、そんなことは考えていなかったが、そう聞かれるとちょっと動揺してしまった。


「まぁ、とにかく、私を選択したってわけだし……それでいいんだけどね」


 そう言うと留奈は立ち上がった。なんだか、俺としても妙に拍子抜けだった。


 俺の覚悟はかなりのものだった。しかし、いざ終わってみると、あっという間の出来事で……おまけに、俺は自分が本当に留奈に告白できているのかどうか、少し不安だった。


「どうしたの? 一緒に帰らないの?」


「え? あ、あぁ……」


 留奈にそう言われて俺も立ち上がる。


「あ。そうだ。明日から一緒に登校するように」


「え……あ、うん……」


「反応悪いなぁ。嫌なわけ?」


「いや、そういうわけじゃないけど……なぁ、留奈」


 と、俺は思わず立ち止まってしまった。それと同時に留奈も立ち止まる。


「ん? 何?」


「あ……その……これから、よろしく」


 俺がそう言うと、留奈はキョトンとした顔で俺のことを見ていたが、困り顔で俺のことを見る。


「うん、よろしく」


 そう言われて俺はなぜか安心してしまった。その時になってようやく俺は留奈に告白したんだと実感することができたのだった。

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