第42話 変わり身の告白
俺は近づくのを躊躇ってしまった。黒髪の女の子は俺にまだ気づいていないようである。
それにしても……意外だった。というか、困った。
俺はてっきり待っているのは留奈だと確信していた。だからこそ、留奈に自分の気持ちを打ち明けようと思ったのだ。
それが、里奈ということになると……大分話が変わってくる。
俺は少し離れた距離から里奈のことを見ていた。かといって、ずっとこのままというわけにもいかない。俺は少しずつ座っている里奈の方へ近づいていく。
「留奈ちゃんだと、思ったでしょ?」
俺が2、3歩歩き出したところで、里奈は俺にそう言った。俺は思わず歩みを止めてしまう。
「留奈ちゃんが待っていて、後は告白するだけだ、って。アハハ。残念でした」
無邪気に笑う里奈。俺は流石に少しムッとしてしまった。
「……この前の話は、なんだったんだ?」
「この前?」
「俺はこの前、お前と一緒にズル休みして……俺の気持ちを話しただろ!? それなのに、なんで……」
なんでお前がここにいるんだ、とは言えなかった。そんなの里奈の自由なのだ。そして、留奈がここにいないのも、それは自由なのだから。
「……ああ。あの話か」
「……なぁ。俺は今からどうすればいいんだ。その……里奈に、何を話せば良いんだ?」
俺がそう言うと里奈は俺のことを見てくる。それから、つまらなそうに小さくため息を付いた。
「別に、いいんじゃない。自分の気持ちを言えば」
「……わかった。じゃあ。はっきり言うよ……俺は……留奈が好きだ」
自分で言ってからとても恥ずかしい気持ちになる。
誰も居ないとはいえ、女の子に向かって別の女の子、しかも、その子の双子の姉妹が好きだっていうのは、とても恥ずかしい。
「……へぇ。それって、私と比べて、ってこと?」
「いや……比べるとかそういうのじゃない。好きだっていうのも、比較の話じゃなくて……俺は留奈の気持ちに答えたい、ってことなんだ」
俺がそう言うと、今度は留奈の方がムッとした顔で俺を見る。
「……留奈ちゃんが好きって言ったから、とりあえず答えようってこと?」
「そういうわけなじゃない。ただ、その……女の子を好きになったこととか、無いから……」
自分でも言っていてかなり恥ずかしかった。本当に駅のホームに人がいないこと、そして、電車がやってこないのが救いだった。
しばらくの間、沈黙が俺と里奈の間を流れる。それから、里奈が急に立ち上がった。
「まったく……じゃあ、小学校の頃、私達のことは別に好きじゃなかったんだ」
「え? いや、まぁ……そういう感じには見てなかったような……」
「私は見てたよ。その頃から」
里奈はそう言ってニッコリと微笑む。そう言われてしまうと……心苦しい。
「そ、そうなんだ……その、ごめん、気づかなくて」
「アハハ! いいって。昭彦、今だって、誰と喋っているのも、気付いてないじゃん。そんな鈍感な昭彦には最初から期待なんてしてないよ」
そう言って笑う里奈……里奈? ちょっと待て。本当に……里奈なのか?
俺はそこまでしてから、今一度目の前の女の子を見る。確かに黒髪で、違いなんてわからないけど……確か以前にも――
「……留奈?」
俺がそう言うといたずらが成功した子供のように嬉しそうに里奈……ではなく、留奈は微笑む。
「……フフッ。また髪黒くしちゃった。傷んじゃうね」
そう言ってあどけなく笑う彼女を見ても、俺は未だに呆然とするしかできなかった。
つまり、俺ははからずも留奈に……告白してしまったようなのであった。
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