第36話 彼女のアプローチ
電車の中に乗り込むと、ようやく落ち着くことが出来た。
冷房がガンガンに聞いた車内にいると、段々と落ち着くことが出来てくる。
といっても、隣には……留奈が座っている。学校もないのに、留奈と一緒に電車に乗っていることを考えると、余計に特別な感じがしてしまう。
「ねぇ」
俺がそんなことを考えていると、留奈が俺に話しかけてきた。
「な、何? どうしたの?」
「……私達さ、周りから見たら、どう見えるのかな?」
留奈は意味深に微笑んでいる。周りから、という言葉で俺は思わず周辺を見回してしまう。
電車の中にはまばらではあるが、何人か乗客がいる。皆、特に俺たち二人を見ているということはないようだが……留奈に言われて俺は思わず意識してしまう。
考えてみれば、今俺は女の子と二人で並んで電車に乗っている。そして、この暑い日にわざわざ出かけようとしているのだ。
そう考えると、今の俺と留奈を傍から見ればどういう関係に見るかと言えば……そこまえ考えて俺は思わず恥ずかしくなってきてしまった。
「フフッ。昭彦、やっぱり面白いね」
「なっ……か、からかわないでほしいな」
すると、留奈は何かを思いついたかのような顔をして俺のことを見る。
「ねぇ、昭彦。ちょっと見てほしいものが在るんだけど」
「え? 何?」
と、そういうと留奈はいきなりスカートの裾を、俺だけに見えるように捲ってみせた。
「なっ……何して……」
いきなりのことに俺は驚いてしまい、思わずスカートの中を見てしまった。
「別に見てもいいよ」
留奈はニコニコしながら俺にそう言う。見ると、スカートの中には女子用の競泳水着が見える。
「……水着」
「うん。下に着てきちゃった。びっくりした?」
嬉しそうにそういう留奈。俺は慌てて視線を反らす。
「そ、そういえば、水泳部だった、って……」
「え? ああ。里奈ちゃんから聞いたの? まぁ、昔は、ね。だから、泳ぐのは結構自信あるよ」
得意げにそういう留奈。俺は俺で、その話を聞いていると、段々と気が重くなってきてしまう。
それは俺にとってプールという物自体があまり良い思い出のある場所ではないこともあるのだが。
「そういえば……昭彦は泳げるようになったの?」
それを聞かれて俺は思わず驚いて留奈を見てしまう。
「え……お、覚えてたの? 泳げないこと……」
「うん。昔から運動音痴だったしね。どうなの?」
俺はそう聞かれて黙るしかなかった。正直、答えたくなかったからだ。
それからも、子供のような悪戯っぽい笑みを浮かべて留奈は俺のことを見ていた。俺はさすがに今度こそ、この上なく恥ずかしくなってきてしまった。
「ねぇ」
「……な、なんだよ。もう」
俺が少し怒っている感じで返事すると、留奈はなぜか俺の耳元に唇を近づける。
「スカートの中身……ホントは、期待してた?」
囁くようにそう言われ思わず俺は留奈から距離をとってしまう。留奈は最初は驚いていたようだったが、すぐに嬉しそうに笑っていた。
「……別にしてないよ」
俺はなんとか落ち着きを取り戻しながら留奈の隣に改めて腰掛ける。留奈は未だに嬉しそうに微笑んでいた。
こういう、とんでもないことを簡単にするという積極性があるという点では、やはり、里奈との双子なんだな、と感じてしまう。
「プール、楽しみだね」
留奈はそう言って俺のことを見てくる。その時、俺はようやく理解した。
里奈が夏祭りに俺を連れて行って俺に「選択」を迫ったときのように、今俺は留奈に「選択」と告白の返事を迫っているのだと。
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