第35話 夏の暑い日
夏祭りがあった日からすでに数日経っていた。暑い日が続いている。
俺は、電車に乗るために駅に急いでいた。今日はすでに夏休みだから学校に行く必要はないのだが……電車に乗る必要がある。
理由は、留奈と出かけるからであった。
数日前、家に電話がかかってきた。電話の相手は留奈だった。留奈によると、一緒にプールに行かないかと言ってきたのである。
俺は……正直、あまりプールには行きたくなかった。行きたくない理由はある。それは俺自身の問題だから仕方がない。
あとは、留奈との一件の問題だった。俺は結局、留奈のあの告白に対して返事をしていない。有耶無耶にしたままだ。
それでも留奈は俺に対して返事を迫っては来なかった。俺自身としてもなんらかの対応をしなければいけないと思ってはいたのだが、結局、今日まで返事をしていない。
結果として、今日、俺は返事をしないままに留奈と会うことになってしまった。だから、俺は少し緊張しているのである。
照りつける太陽の下を歩きながら、汗だくになって駅へと向かう。そろそろ駅が見えてきた。留奈とはホームで待ち合わせている。俺は改札を通り、ホームへと辿り着いた。
周囲を見回すと、少し離れた場所に、ショートカットの金髪の女の子が立っている。俺はゆっくりと女の子の方に近づいていった。
留奈は白いシャツに、短い黒のミニスカートと、いつもの制服姿からすると、なんだか新鮮な姿だった。
「あ……留奈」
俺が呼びかけると留奈はこちらに顔を向ける。留奈は少し安心したように俺に向かって微笑んだ。
「なんだ。来てくれたんだ」
「え……いや、そりゃあ、約束したし」
「そう? あんまり昭彦、私に会いたくないんじゃないかな、って思ってたけど」
留奈はわかっていて言っているのか、少しいたずらっぽく笑っていた。俺としても図星ではあるので、反論はできなかった。
「それにしても、暑いね」
留奈は太陽を見上げながら、眩しそうにそう言う。
「あ、あぁ……確かに」
「こういう時はプールとか行きたいな、って思うでしょ?」
「ま……まぁ……」
俺が反応がいまいちはっきりしないせいなのか、留奈は少し不安そうだった。
「それに、こういう暑い夏の日ってさ、小学生の頃を思い出さない?」
「え? そ、そうかな……」
「うん。子どものの頃はなんにも考えずに、暑い日でも元気に遊びに行ったよね。でも、今は、そういうわけにもいかないのかな……」
そう言って留奈は意味深な視線を俺に向けてくる。俺は何も言えなかった。
留奈は間違いなく、俺の返事を待っている。それは当たり前のことで、俺だって返事をしなければいけないというのはわかっている。
だけど――
「あ。電車来たよ」
そんな時に電車が駅にやってきて、扉がゆっくりと開く。留奈は先に電車に乗り込んだ。俺は少し悩んでしまう。
本当にこんな状態で留奈と一緒に出かけていいのだろうか。
「昭彦」
俺が悩んでいると、留奈が俺の名前を呼ぶ。俺は反射的に電車に乗り込んだ。
俺が電車に乗ると同時に、扉が閉まり、電車が動き出したのだった。
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