第24話 久方ぶりに

 すでにほとんど夏本番になったのだろうか。とにかく、外がとても暑い。


 そこら中で蝉が鳴いている。電車の中では冷房が効いているからいいが、とにかく、外に出たくない。とにかく、俺は冷房が効いた電車に揺られていた。


 それにしても……前の留奈との一件は未だに俺の中で未だに深い悩みになっていた。


 そもそも、なぜ留奈は里奈のフリをしていたのか。そして、なぜ……俺にキスしたのか。


 正直、女の子とキスするのは初めてというか、将来的にも絶対ありえないと思っていた。それなのに、その相手が小学校の頃の女友達って……なんだか、未だに信じられない気分である。


 しかし、あの一件以来、留奈とは会っていない。正直、ちょっと心配になってきている。といっても、連絡方法がないので、確認することが出来ないのだが。


 俺は心の何処かで留奈と会うのを望んでいる。しかし、すでに留奈が乗ってくる駅は通過してしまった。俺はなんとなくモヤモヤした気分で電車の外を見ていた。


 と、電車がまたしてもゆっくりと停車する。扉が開き。女の子が二人乗ってきた。


「あ! 昭彦!」


 見るとショートカットの女の子が俺の方に手を振ってくる。


 留奈……ではない。それは、となりにいるポニーテールの女の子が無愛想に俺のことを見ていることで理解できた。


「いやぁ、随分久しぶりだね~」


 本物の里奈は俺の座っている前に立って、嬉しそうに笑っていた。


「あ……あぁ……」


「そういえば、夏樹は、前に昭彦と会ったんだっけ?」


 と、いきなり里奈は隣の夏樹に訊ねる。


「……ああ。会った」


 まるでゴミを見るかのような目で俺を見る夏樹。相変わらず俺に対して仲良くするとかそういうつもりはないようである。


「そっかー。じゃあ、もう、友達みたいなもんだね」


 そう言ってニコニコしながらそういう里奈。どう考えても友達ではない気がするのだが。


「……里奈。こっち来て」


 そう言って夏樹は俺とは反対方向の座席に里奈を誘導しようとする。


「え? あ、じゃあ、昭彦、後でね」


 そう言って里奈はそのまま夏樹についていって、その席の方へ行ってしまった。


 それからは里奈と夏樹はかなり仲良さそうに話していた。といっても、一方的に里奈が楽しそうに喋り、夏樹はそれを仏頂面で聞いているだけだったのだが。


 そして、しばらくすると夏樹が降りる駅にやってきた。夏樹は立ち上がると里奈と別れる。夏樹は一瞬だけ俺のことを見たが……相変わらず敵意満載の視線であった。


 夏樹が降りると、里奈が俺の方に顔を向けてくる。と、なぜか中々里奈はいつものように俺の隣にやって来なかった。


 そして、電車がしばらく走行してから、里奈は立ち上がり、俺の方にやってくる。


「あ……あのさ」


 座っている俺の前に立つと、なぜか思いつめた顔で話しかけてくる。


「え……何?」


「……夏樹からもう聞いているんだけど……その……留奈ちゃんのこと」


 言われて俺は何を言ったら良いかわからなかった。実際俺は、里奈と留奈の区別がまったく付いていなかったわけなのだから。


「あー……その……ごめん」


「え? なんで昭彦が謝るの?」


「いや……なんというか、昔からの知り合いなのに、里奈と留奈の区別がついていなくて……」


 俺がそう言うと里奈は目を丸くした後で、急に笑いだした。


「え……なんで笑うの?」


「あはは……いや、だってさ……そんなの絶対分からないって。私だって留奈ちゃんと自分の区別ほとんどつかないくらい似ているんだからさ」


「あ……あぁ。そうなんだ……」


 そう言われると少し俺も安心する。と、なぜか里奈は急に真面目な顔になって俺のことを見る。


「で、昭彦はさ。この顔と同じ顔の女の子と、キスしたんだよね?」

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