第21話 最悪のタイミング

 それから数日もやはり里奈は俺と一緒に登校、下校していた。


 流石に俺も不審に思ってきてしまった。かといって、一緒に登下校するのが嫌なわけではないので、あくまで突っ込んで聞くのはやめておくようにした。


 そして、その日も俺が帰宅していると、やはり里奈が電車に乗ってきた。相変わらずなぜか留奈が乗ってくるはずの駅で。


「いやぁ、今日も疲れたね~」


 里奈は当たり前のように俺の隣に座って大きく伸びをする。俺は読んでいた本をカバンにしまって里奈の方を見る。


「そういえば、里奈……あの友達とは最近一緒に帰らないの?」


「え? 友達って?」


 なぜか不思議そうな顔をする里奈。むしろ、不思議に思うのは俺の方である。


「いや……あの、ポニーテールの同じバレー部の子」


 俺がそう言うと里奈は完全に黙ってしまう。そして、しばらく経ってからなぜか一人で勝手に小さく頷く。


「あー……あの子とは、ちょっと喧嘩してて……」


「え? だって、めちゃくちゃ仲良いいみたいなこと言ってなかった?」


 俺がそう言うと里奈は少し怒ったように俺を見る。


「い、いやいや。どんなに仲良くても喧嘩することくらいあるでしょ? 昭彦だって、そういうのない?」


「……俺、あんまり友達いないから」


「あ……ご、ごめん……」


 なぜか里奈を謝らせてしまった。実際悲しい事実なのだから仕方がないのだけれど。


「……でも、喧嘩しているなら、仲直りしたほうがいいんじゃない?」


「え? ……そうかな?」


「うん。だって、里奈、とても楽しそうに話してたよ。あんなに楽しそうな里奈、初めて見たしなぁ」


 俺がそう言うとなぜか里奈は黙って俯いてしまった。無神経に何か言ってしまっただろうか?


「……そんな楽しそうだったんだ」


 そして、悲しそうにそう言った。俺はそのあまりの様子の変化に思わずかける言葉を失ってしまった。


「あー……でも、あんなに仲良さそうだったんだし、すぐに仲直りできるんじゃない?」


 あまり根拠はないと自分でも言っていて思ったが、慰めると思って俺は里奈にそう言った。


 里奈は俺の言葉を聞くと、少し安心したように小さく頷いた。


「……里奈?」


 ちょうどその時だった。ふいに、別方向から聞き覚えのある声が聞こえてきた。


 と、声のした方を見ると、そこには件のポニーテールの女の子である里奈の友達、夏樹が立っていた。夏樹はなぜか驚いた表情で俺と里奈のことを見ている。


「あ……どうも」


 夏樹は俺の方を見て、信じられないという顔をする。


「え……お前……お前の隣にいるのは……」


「え? いや、里奈だけど……そういえば、今日は里奈と一緒じゃないの?」


 俺がそう言うと夏樹は首を横に振る。


「……里奈は今日は部活だよ。私は家の都合で今日は帰るんだ。ついさっき、里奈と学校で別れてきた。だから、里奈がここにいるわけがないんだ……」


 そう言ってから夏樹は今一度俺の隣を見る。


「お前……誰だ?」


 その夏樹の問いに、俺の隣にいる里奈のはずの彼女は、黙って俯いたまま、回答しないのであった。

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