第20話 危機

 それからの数日、割と里奈と会う日が多くなってしまった。正直、部活に行っていないのではないかというくらいに里奈と会う頻度が高い。それが嫌かというそういうわけでもないのだが。


 その日も俺は本を読みながら帰っていたわけだが、なぜか確実に里奈と会う予感がしていた。


 そして、実際に、里奈はいつもとおりの駅で乗ってきた。最近は電車に乗ってくる時はいつも機嫌が良さそうである。


「やぁ、また会ったね」


 嬉しそうにそういう里奈。


「あ、あぁ……そうだね」


 俺は小さく頷く。


「しかし、こうまで毎回会うのもなんというか、偶然にしてもすごいね。私達、こう縁があるのかな?」


 少し恥ずかしそうにそういう里奈。そう言われると、確かにそうなのかもしれないが……実際はどうなのだろう。どう考えても里奈が俺の帰宅時間に合わせているような気がするが。


「……なぁ、里奈。一つ聞いていいか?」


「ん? 何?」


「その……大丈夫なのか? 部活。最近いつも帰りが早いような気がするんだけど」


 俺がそう言うと里奈は少し視線を反らした後で、ムッとした様子で俺を見る。


「……別に昭彦に関係ないでしょ。私だって色々あるんだから」


 そう言われてしまうと、俺もそれ以上は何も言えなかった。


「あれ? アンタ、もしかして留奈の知り合い?」


 と、その時、ちょうど声が聞こえてきた。


「あ……君は……」


 見ると、茶髪の女の子……留奈の友達である望海が俺の前に立っていた。


「久しぶりだね。っていうか、隣にいるのって……留奈?」


 夏樹が顔を見ようとした瞬間、なぜか里奈は俯いてしまう。


 俺と望海は思わず顔を見合わせてしまう。


「え……何?」


「あー……いや、こちらは留奈の双子の姉妹の里奈だ」


「え!? 留奈って姉妹……っていうか、双子だったの?」


 望海は目を丸くして驚いている。どうやら、留奈は自分が双子だということを望海に話していなかったらしい。


 そして、今一度里奈のことをまじまじと見ようとするがなぜか里奈は望海と顔を見合わせようとしない。


「里奈? どうしたの?」


「え……あ、あはは……ちょっと恥ずかしいというか……」


 よくわからないが、里奈は望海が怖いのだろうか? さすがの望海も少し不思議そうである。


「……あ。っていうか、昭彦、アンタ、留奈のこと知らない?」


 と、いきなり望海は俺にそう訊ねてきた。俺はいきなりの質問に戸惑う。


「え……知らないって?」


「いやね、あの子、最近めちゃくちゃ早く帰っちゃうのよ。ウチが聞いても理由教えてくれないし……てっきり、昭彦に会いに行ってたのかな、って思ったんだけど」


「え……いや、俺も留奈とは会ってないけど……」


「へぇ。じゃあ、あれか、まじで彼氏できちゃったとか――」


「できてない!」


 望海がそう言いかけた時、里奈が電車に響くような声でそう言った。思わず俺も望海も里奈の方を見て唖然としてしまう。


「え……あ……いや、る、留奈ちゃんに限って、彼氏とか、まだできていないと思う……」


 里奈は顔を真っ赤にしながらそう言った。と、ちょうど、電車が停止する。そこは、望海が降りる駅だった。


「あ……じゃあ、ウチはこれで」


 そのまま望海は気まずそうに降りていってしまった。残された俺と里奈は、再度電車が動き出すまで喋らなかった。


「……ねぇ」


 と、電車が動き出すと同時に里奈が俺に話しかけてくる。


「え……何?」


「……私と留奈ちゃん以外にも、名前、呼び捨てにさせてるの?」


「え? あ……いや、さっきの子が勝手に呼んでるだけだけど」


「ふ~ん……じゃあ、いいけど」


 そう言って不機嫌そうな顔で俺を見る里奈。やはりその不機嫌そうな感じは……どこかしら留奈に似ているものを感じさせるのだった。


「……っていうか、なんで今日に限ってあの子早いのよ。いつも寄り道してるくせに」


「え? 里奈、何か言った?」


 何かを呟いていた里奈に俺が問いかけるも里奈は答えてくれなかった。なんとなく不思議な感じのままで、俺達は終点にまで向かっていったのだった。

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