第19話 雨の中で
その日は朝から雨だった。駅まで向かう道でも傘をささなければいけないというのは非常に憂鬱なものだ。
かといって、学校に行かないという選択肢は存在しない。行きたくなくても行かなければいけないのである。
俺はなるべく何も考えないようにしながら、駅へと向かう。幸いなのはあまり利用者が多い駅ではないということだ。おかげで乗車した時点では客もあまり電車内にいない。
そして、いつものように改札を出た辺りの出来事だった。
「昭彦!」
声が聞こえてきた。俺は思わず驚いて声のした方に顔を向ける。
「……里奈?」
そこにはいつも帰りの電車で会うはずの女の子が立っていた。嬉しそうに笑顔をこちらに向け、手を振っている。俺はそのまま女の子の方に近づいていく。
「え……なんで?」
「えへへ……いや、たまには朝、一緒に行ってみようかなぁ、って」
少し恥ずかしそうにしながら、里奈はそう言う。
俺は喉の部分まである疑問が出てきてしまう。それは「部活は大丈夫なのか」ということだ。
女子バレー部なんてどう考えても朝練があるはず。それなのに、今、里奈がいる時間は普通の投稿時刻に間に合うような時間だ。
「え……なんか、駄目だった?」
と、俺が考え込んでいると少し不安そうに留奈がそう言ってくる。俺は反射的に首を横に降ってしまった。
「よかった……じゃあ、途中まで一緒に行こう」
そう行って里奈と俺はホームに向かい、そのまま俺がいつも決めている乗車位置に立った。
「……雨、嫌だね」
と、並んで立っていると里奈が唐突にそう言ってきた。
「え……まぁ、そうかな」
「昭彦は、夏休みになったらどこか行くの?」
「え? いや、特に考えてないけど……」
俺がそう言うと里奈は目を輝かせて俺の方を見る。
「じゃあさ! 私とどこか行こうよ!」
「え……里奈と?」
「うん! どこでもいいからさ。ね?」
里奈は懇願するようにそう言ってくる。あまりにも予想外のことだったので、単純に反応できなかった。
「あ……うん。考えておく」
だからこそ、そんな中途半端な答えしかできなかった。それを聞いて里奈は少し不満そうでもあったが。
「あー……でも、その前に期末テストかぁ……だるいなぁ」
テストのことを思い出すと里奈は気だるそうに大きくため息をつく。
「いや、でも、この前は結構出来てたじゃないか」
「え~? 全然出来てないよ~。っていうかさ、勉強教える時、今度はちゃんと私のことも誘ってよね?」
「……今度は?」
俺が思わずそう言ってしまうと里奈の表情が固まる。しばらく里奈は黙っていたが、急にわざとらしく笑いだした。
「あ……あはは! こ、今度も、ってことよ? わかるでしょ?」
「え……あ、あぁ。そうだね」
そうこうしているうちに、電車がやってきた。俺と里奈は扉が開くと同時に電車に乗り込む。
しかし……どうにもやはり、俺の中では、目の前にいる里奈に対していよいよ色々とひっかかるものが多くなってきてしまっていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます