第14話 違い

 いつものように俺は電車で帰っていた。なんとなくだが、図書室にいると随分と時間がかかってしまった。いつのまにか、空の向こうがオレンジ色になっている。


 車内には人も疎らである。今日はどうやら、里奈も留奈もいないようである。


 別にあの二人に会いたいというわけではないが、あの二人と会っていると一人でいる時間が貴重だなと感じてしまう瞬間もある。


 それと同時に、あの二人に会わないと、なんだか物足りないようなそんな気持ちになってしまう。微妙な感覚なのである。


 それでも今日は会わないだろう、そう確信していた。そして、電車はゆっくりと終点に止まる。


 俺はホームに降りる。それと同時に、待合の椅子でスマホをいじりながら、座っている金髪の少女を発見する。


 俺は何も言わずにそちらに近づいていく。まさか……また留奈が待っているとは思わなかった。


「あ……留奈?」


 俺が呼びかけると、留奈がスマホから顔を上げる。怒っている……というより、やはりどこか不機嫌そうな表情だった。


「……遅くない?」


「え……ああ。いや、ちょっと本、読んでて」


「……ふ~ん」


 なぜか疑わしい目つきで俺のことを見る留奈。俺は思わず目を反らしてしまう。


「……里奈ちゃんと会ってたんじゃないよね?」


「へ? り、里奈?」


 意味がわからず俺は思わず聞き返してしまう。留奈はそれでもジト目で俺のことを見ている。


「……知ってるんだよ。昨日は里奈ちゃんと一緒に帰ってたでしょ?」


「え……ま、まぁ……」


 俺は反射的にそう言ってしまう。里奈は鋭く俺のことを睨みつけている。


「……なんで?」


「え……なんでって、里奈に一緒に帰ろうかって言われたし……」


「は? あのさ。私も前に言ったよね? でも、昭彦、一人で帰るって断ったよね? なのに、どうして里奈ちゃんから言われると断らなかったの?」


「そ、それは……」


 言われてみると俺はその問いに対する明確な答えを持っていなかった。いや、まぁ、実際断れなかっただけというのが理由なのだが……


 しかし、そのままの理由を言うのもなんだか恥ずかしいので俺は思わず口ごもってしまう。留奈はますます機嫌悪そうに俺を見ている。


「……はあ~。最低」


「え、最低って……」


 俺がそう言うと留奈は立ち上がって俺に詰め寄ってくる。


「だって、そうじゃん! 差別でしょ? 私と里奈ちゃん、どこに違いがあるの?」


 そう言いながら怒る留奈の表情は、確かに双子であることを思い出させてくれるくらいに、里奈と似ていた。


 ただ、いつも笑顔の里奈と比べて、留奈はいつもどこか不満そうな不機嫌そうな表情だった。


「そ、それは……どこって言われると難しいけど」


「ふ~ん。わかった。そういうことなら私にも考えがあるから」


 そう言うと留奈はそのまま改札の方に歩いていってしまう。


「え……ちょっと、留奈」


 俺が呼び止めると、留奈は振り返る。そして、まるで子供のように小さく舌を出してそのまま行ってしまった。


「……別に、言ってくれれば、今日は一緒に帰るんだけどな」


 その言葉はなんだか言い訳じみていて俺自身でも少し格好悪く思えた。それにしても考えがあると留奈は言っていたが……何か面倒なことになってしまうんじゃないかと俺は、少し心配になる。


 だったら、今から留奈を追いかけたほうが良いだろうか。追いかけて、やっぱり一緒に帰ろうといえば、全て解決するんじゃないだろうか。


 ……いや、無理だ。俺にはそんなことはできない。やろうとしないんじゃなくて、できないのだ。


 そんなことができるのは、それこそ、俺とは違う世界の人間なのだろうと、自分に言い訳するようにそう考えながら俺も改札の方に向かっていったのだった。

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