第6話 不快
それからそれなりに日数が流れた。
俺は誰とも会うこともなく相変わらず帰宅していたし、電車の中でも変わったことは特になかった。
ただ、少しずつ気温が高くなってきたこと……それくらいしか俺の中での変化は存在しなかった。
しかし、その日は、違った。
俺が座った席の真向かいに、留奈がいたのだ。前と同じように友達と並んで座っている。
留奈は俺の方を少しだけ見た。俺も少しだけ……一瞬だけだが目が合ったような気がした。
それから、何を話しているかはわからないが、時々友達と留奈が俺の方をチラチラと見てきたのだ。
そして、留奈の友達の方は何が面白いのかわからないが、俺を見てわらっているのである。
俺とて、意味もわからず笑われればいい思いはしない。留奈も俺の方を時たま見るが……笑ってはいなかった。
そして、電車がだんだんと終点に近づいてきた……その時だった。
「え~!? 留奈、趣味悪くない!?」
留奈の友達は大きな声でそう言ってから今一度俺の方を見た。確実に俺の方を見ているのである。
「の、望海……声大きいって……」
留奈は困ったようにそう言うが、別に友達の方は構わないという感じである。
「え~……でも、絶対趣味悪いって……彼氏はあんな奴じゃないんでしょ?」
「あんな奴」……なんとなく、というか、確実に俺のことなのだろう。
留奈は少しだけこちらを見て、困ったような顔をした。
「の、望海……もうこの話やめようよ……ほら、そろそろ降りる駅だよ?」
「え? あ! マジじゃん! ま、いいや。じゃあ、またね!」
そういって、留奈の友達はすぐに停車した駅で降りていってしまった。
留奈はしばらくは友達の事を見送っていたが……程なくして申し訳なさそうに俺の方を見てきた。
そして、終電が近くになるにつれて、人が少なくなってきた。それと同時に留奈は自分の席から立ち上がると、俺の方に近づいてきた。
「あ……昭彦君……」
そして、留奈は俺に話しかけてくる。
「あ、ああ……気づいてた、よね?」
俺がそう言うと留奈も小さく頷く。暫くの間俺と留奈の間に沈黙が流れる。
「……その……私は何も……言ってないんだけどね……あはは……」
「え? ああ……何? もしかして、タイプの男子が誰か、とか?」
俺がそう言うと留奈は少し恥ずかしそうにしながら話を続ける。
「まぁ……それで、たまたま前にいた昭彦君を見て、望海が『アイツはなし、だよね?』っていうから……」
「否定しなかったの?」
俺がそう言うと留奈は少しためらってから先を続ける。
「……私は、別にアリなんじゃないかな、って」
「別に、ね」
俺が意地悪くそう言うと留奈は困った顔で俺を見る。
「ほ……ホントにごめん……」
「別にいいって。それに実際、留奈ちゃんには俺とタイプが全然違う彼氏がいるんでしょ?」
「だ、だから! いないって前に言ったじゃん!」
少し語気を荒くして、留奈はそう言った。俺は思わず唖然としてしまう。
「あ……そ、そう……あ。でも、友達には、彼氏いるって……」
「……しょうがないでしょ。彼氏いないなんて……ダサいし……」
そう言ってから、留奈は俺のことを見る。程なくして終点へのアナウンスが響き、電車が止まった。
「……降りる。またね」
そういって、留奈はそのまま電車から降りていってしまった。俺はそれから少し遅れて電車を出た。
すでに留奈は改札の方に向かって歩いていってしまっていた。
彼氏がいないとダサい……か。
「……女子は大変だなぁ」
俺はそんなことを言いながら、留奈より少し遅れて改札の方へ向かっていったのだった。
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