第3話 どこかで

 その日は俺はいつもよりかなり遅い時間の電車に乗っていた。無論、この前留奈と会ったから時間をずらそうとしたというわけではない。


 単純に学校の図書室で本を読んでいたら時間が遅くなってしまったのである。


 夕日の差し込む社内で、俺は電車に揺られながら左右を確認する。


 ……いた。例のショートカットの彼女だ。前と同じように俺の向かい側の席に座って眠っている。


 まぁ、いたからどうした、という話なのではあるが……


 俺はチラリと彼女を見た後で今一度図書室で借りてきた本を読み始める。あまり内容的に面白い話ではなかったので、まったく頭に入ってこない。


 電車に揺られながらだんだんと夕焼けが沈んでいく。窓の外を見ながら俺はなんとなく感傷的な気分になっていた。


 そして、もうすぐ終点……相変わらず件の彼女は眠ったままである。俺は特に気にせず携帯をいじったり本を読んでいた。


 遂に電車が終点のアナウンスをする。俺は本をカバンの中にしまった。そして、降りる準備をする。


 電車が段々と速度を落として駅に侵入していく。そして、ゆっくりと止まった。


 扉が開く。俺はチラリと彼女を見る。眠っている。


 ……俺は何を思ったか、自分でも不思議だったが、彼女に近づいて行った。


 彼女はすやすやと眠っている。ふと、今一度彼女の顔を見てみる。


 すると、俺はあることに気づく。この子……どこかで会った気がするのだ。


 もちろん、どこで会ったかは覚えていないのだが、会った気がするという大雑把な記憶だけが残っている。


 と、そんなことを考えながらも、俺の手は自然と彼女の肩を叩いていた。


「う……う~ん……?」


 彼女は眠たそうに目を開ける。


「あ……えっと、終点なんだけど」


 俺がそう言うと彼女は周囲を見回して俺以外の乗客がいないことを確認する。


「え……終点……もう着いたの!?」


 彼女は驚いて恥ずかしそうにそう言って謝ると、立ち上がり、そのまま慌てて電車から降りていった。俺もその後に続く。


 彼女は俺の前方を走っていた。


 ただ、一度だけ彼女は後ろに振り返り、俺の方を見る。


 そして、今一度申し訳なさそうに頭を下げた。俺も同時に小さく会釈する。


「……そんなに眠いのか」


 俺はそう独り言を言いながら、駅の改札口へと向かう。しかし、どうにも俺にはひっかかることがあった。


 やはり、あの短髪の女の子、どこかで会った気がする……そんな思いが未だに残っているのだ。


 もちろん、ただの記憶違いかもしれないが、どうにもそう思えてならないのである。


「……まぁ、どうでもいいか」


 また会うという保障もないわけだし、あまり深く考えないほうが良い。俺はそう思いながら家路へと急いだのだった。

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