粗暴な男の想い人。

 リムエル・フェッセンを折檻すべく、ミハエラが呼んでいた人物。

 その人物について、俺は以前話した内容を思い返す。

 あのラドラムがミハエラの行動力に驚くほどの、そして国賓に値するという存在。その女性について聞いた際、俺も唖然としたことを覚えている。



「ではこちらへ来てくれ。先にクリストフも待ってるから、共にご挨拶といこうじゃないか」


「クリストフ様も居るのですね」


「そうとも。一応、やってきた彼女は国賓であるものの、その素性を明かさず、また彼女が我が国に来るという事実は伏せて貰っている。理由は当然、面倒だからだ」


「それ、大丈夫だったんですか?」


「構わんだろう。我はグレスデンに対し、以前私が対応した海賊の件があると言い、当時の諍いを忘れると言って呼びつけたからな。ただ、国賓を呼べば面倒と言うだけの話だ。それ故、彼女が来ることを知っている者は貴族の中でもごく一部だ」




 一瞬、国の格で脅したような気がして微妙な気持ちに陥った。

 けど思えば、最初に問題を起こしたのがグレスデンだと思えば、重いのか、それもおかしな話ではないのかもしれないと考えさせられる。



 以前の海賊に加え、リムエル・フェッセンの無礼。

 これらを鑑みたところ、ミハエラの強引さは決して悪でない気がしてきたのだ。




「ですがミハエラ様、」



 ふと、俺は今更ながら気になったことを尋ねることにした。



「ん? どうしたのだ?」


「もうリムエルの件はどうにかなりましたが、例の国賓の方に来ていただく必要はあったのでしょうか」


「確かにそうだが、彼女を呼んだのはそれが解決する前だったからな」


(そういや、確かに)


「彼女がグレスデンを経ったという連絡を魔道具で受けてから、当然、我も魔道具を駆使して海上の彼女へ連絡したぞ。が、彼女も謝りたいと言っていたから、そのまま来てもらうことにしたのだ」



 さすがのミハエラも何もしなかったわけではないようだ。

 隣でふふん、と胸を張っている彼女は猶も偉そう。



(それにしても……)



 リムエル・フェッセンと例の国賓の関係について思うことがある。

 何でもリムエルの想い人は、その国賓であるそうだが、何とも身分さのある恋だと考えて止まない。

 だが、いい話じゃないか。彼は祖国を離れて留学しているというのに、その女性のことだけを想うなんて美しい話以外のなにものでもない。



 港の一角を進み、密かに足を運んだ国賓の下へ向かいながら頬を緩める。



 俺がそうしていた姿を見て、ミハエラが「どうした?」と言う。

 だから俺は「実は――――」と前置きをして、リムエルとその想い人を考えていたとを口にした。



「我も同じことを考えたことがある」



 と、ミハエラは頷いてから言う。



「どうやらリムエルと例の国賓は幼馴染らしいぞ。幼い頃、グレスデンの首都で多くを学んでいたリムエルは彼女と出会い、彼女のために頑張ろうと決めたそうだ」


「へぇ……だからシエスタに留学を?」


「そうらしい。こう言ってはなんだが、グレスデンで学べることと我が国で学べることの差は大きい。だからリムエルは祖国のため、魔法の他、多くを学ぶべくシエスタ魔法学園にやってきた。やや粗暴と称される性格だが、その頑張りが空回りしたところだろうさ。グレスデンでは男は強くあれ、という教えがあるからな」



 事情は理解できるけど、巻き込まれた身としては若干辟易してしまう。

 リムエルが祖国のために勤めていた事実は美しいけど、といったところだった。




 ――――俺たちはまた少し港を進み、倉庫街の一角にたどり着く。



 が、そこは普段と違いどこか物々しい。

 入り口の前には我らがシエスタの魔法使いが数人と、その魔法使いたちを率いるクリストフが居る。すぐ傍には、俺がリベリナで見たグレスデン人を想起させる、身なりが良く親衛隊の言葉を考えさせる一団が居た。



 ついでに、この周囲は自然と人が寄り付かぬよう気を遣われてるようだった。



「グレン少年」


「いらっしゃると聞いておりませんでしたよ、クリストフ様」


「実は今朝方決まったのです。私の部下だけを派遣するつもりだったのですが、私の仕事に余裕が生じたので、それならと」


「なるほど。道理で」



 俺とクリストフが話を終えると、グレスデン人の中から一人の男が前に出た。

 引き締まった肌を覆った露出が多めの皮鎧。その上に毛皮のコートを羽織ってはいるが、隙間から覗く肌色には寒くないのか? と疑問が浮かぶ。

 そうしていた俺の前に来たそのグレスデン人が、不意に片膝を折って俺に頭を垂れたのだ。



「かの名高きアルバート・ハミルトンがご令息、グレン・ハミルトン殿。偉大なる

世界樹の加護を受けし”ギルラ”が、根ノ守として謝罪申し上げる」



 すると、その男は木製の短剣を捧げるように両手で掲げた。



(――――はい?)



 謝罪は受け入れるが、貴方は誰だ。

 そして、捧げた短剣をどうすればいいのか。

 困っていた俺へ、クリストフが耳打ち。



「受け取りなさい。それはグレスデンの島を預かる根ノ守による、最大限の謝罪です」


「……と、言われますと?」


「あれは彼らの首都にそびえ立つ大樹こと、世界樹の木の根で作られた短剣です。彼らが神のように崇めている存在の根から作ったと思えば、どれほどの価値かわかるでしょう」



 俺は膝を打つ思いで頷いた。

 なるほど、そりゃ確かに大ごとだ。気が付けば他のグレスデン人たちも膝を折っているしで、このまま謝罪させるのは俺の本意ではない。

 すぐさま手を伸ばした俺は、なるべく丁寧にその短剣を受け取った。

 すると、ギルラと言った男が立ち上がり、倣って他のグレスデン人も立ち上がった。



「謝罪を受け入れていただき感謝する。その短剣は世界樹の魔力がしみ込、、、、、、、、、、んだもの、、、、。貴殿を守ってくれることだろう」


「ですがよろしいのですか? どうやら高価な品のようですが」


「構いませんとも。しかし仰る通り、高価どころか値が付かぬ代物です」



 ……大事にしよう。そう思い、引き攣りかけた頬を必死にこらえる。

 傍で見ていたミハエラがニヤニヤしているのがイラッとした。



「重ねて謝罪申し上げる。この度は我が息子が無礼な真似をしたとのこと、心より申し訳ない」


「――――もしかして、ギルラ殿は……」


「っと、申し遅れましたな。私はギルラ・フェッセン。ご迷惑をおかけしたリムエルの父にございます」



 また、傍に居る他のグレスデン人たちは、フェッセン家の戦士たちなのだとか。

 道理で彼らもまた深々と謝罪の姿勢を取っていたのだ。



(そういや、ミハエラはリムエルを折檻するって言ってたんだから、その父が来ても当然なのか)



 俺が一人納得していると、ギルラはミハエラとクリストフの二人と言葉を交わはじめた。

 見ればこのギルラという男は、息子のリムエルと違い落ち着いた男だ。

 話口調、間の取りかた、腰の低さ。

 すべてがリムエルとはあまり似ていない、立派な領主と思わせる人格者だったのだ。




 ◇ ◇ ◇ ◇




 例の国賓と顔を合わせる仕事を終えてからは、シエスタ魔法学園へ足を運んだ。

 別の仕事で、領主一族の者として国内外の貴族と挨拶を交わすためだ。というのも、シエスタ魔法学園には国内外問わず、多くの貴族が箔をつけるために子を入学させる。

 俺が父上に任された仕事は、その貴族たちとの挨拶である。



 ちなみに、父上がいまどこにいるかは分からない。

 帝都からの客もいるため、忙殺されているに違いない。

 いざとなれば婆やが学園まで来てくれるはずだから、俺は気にせず、自分が任された仕事を真っ当すればいいだけの話だ。



(去年の今頃は、第三皇子の誕生日パーティの支度をしてた頃かな)



 思えば場所も立場も、以前と比べて遠くまできたものだ。

 忙殺されすぎて関係ないことまで考えてしまう。



 ――――学園祭としての面もある銀月大祭。



 その中心地と言っても過言ではないシエスタ魔法学園の賑わいの中で、俺は中庭の隅にあるベンチに座った。

 生徒たちが楽しむ様子を流し目で眺めつつ、ふぅ、と息を吐く。

 いくつも並ぶ出店ではなくて、食堂で買った飲み物が入ったカップを片手に寛ぐ。



 この飲み物がなくなったら仕事に戻ろう。

 まだ余裕はあるけど、さっさと戻った方が後の自分が楽をできる。

 そう思い、カップの中を覗き込んでため息を漏らす。



 ああ……もう少しじゃないか!

 口元にカップを運ぶ手が鈍りはじめる。

 そういや、昼ご飯も買っておけばよかったかも。

 などと思いはじめた、そのときのことだ。



「あー! せっかくなんですから、出店を楽しめばよかったのにー……っ!」



 不意に背後から顔を覗かせ、互いの顔が擦れ合いそうなほど近くから聞こえた声。

 横目で見れば、姿を見せたのはアリスだった。

 彼女の顔はすぐに離れ、代わりに俺が座るベンチの前にやってきた。見慣れない服装なことに気を取られていた俺の隣に座り、食べ物が入った紙袋を置く。



「お腹が減ってたら、グレン君もいかがです?」



 ころん、と軽く首を寝かせて言ったアリスに目を奪われる。

 その可憐さはさることながら、珍しい服装だったことに今も尚気を取られ、更に疲れていることもあって俺は油断していたのだ。



「ちょうどお腹が空いてたから、少し甘えようかな。――――ところで、その服は?」


「これです? 実は私の組の出し物の衣装なんですけど、どうでしょうか?」


「……ああ、道理で」


「それでそれで、どうなんです? 似合ってますか? 似合ってないとか言われたら、私、どうなるかわかりませんよ?」



 なら聞くなよと思いつつ、でも嘘を付けずに「似合ってる」と口にしてしまう。

 アリスは俺の言葉を聞いて更に頬を緩めた。



「本当は着る予定じゃなかったんです。でも、この近くの教室を狩りて出し物をしてるので、せっかくだし――――ってわけで、コートを羽織ってここまで来ちゃいました。なのでなので、私のこの姿を見たのはグレン君だけなんですよ」



 それは、給仕が着るような服だった。

 ただ、本職の給仕が着る服と比べてスカートの裾は短いし、上着のそでも短い。

 一見すれば可愛いけど、多少、露出が多い気はした。

 その影響もあってか、アリスと同じ組のミスティも着るつもりはなかったそう。アリスと二人で裏方として勤めていたようだ。



「でもでも、可愛いのに着ないのってムカつくじゃないですか」


「そういうもん?」


「当ったり前ですよー……。かといって私はちょろーっと忌避感と言うか、恥ずかしさがあったので……」



 たはは、と笑いながらアリスがつづける。



「たまたまグレン君を見かけたので、ちょっと抜けて来ちゃいました。ここってあんまり人目に付きませんし、少しくらいゆっくりできるかなーって思って」


「確かにそうだけど、それで俺がここに居るって良くわかったね」


「当たり前ですよ。こちとら飼い猫みたいなとこがあるんですから、分かって当然じゃないですか」



 まったくもって理解できないし、否定したいところだ。

 でも、疲れているせいでツッコむ気力があまりない。

 だから俺は、アリスが紙袋を開く様子を静かに眺めていた。



「これどうぞ。私のおごりですっ!」



 手渡されたのはサンドイッチだった。

 嬉しいことに、俺が貰ったのはまだ湯気が立つ肉が挟まれたサンドイッチである。アリスはサラダ系のそれを手にしており、これが俺のために用意されたものであると一目でわかった。



「はえ? どうしたんです?」


「あ、ああ、ちょっと驚いてただけ」


「にゅふふ~。頑張ってるグレン君のことです。きっとボリュームのある食べ物が良いだろうなって思って、私たちの組で用意したものを買ってきたんですよ」



 隣に座る可憐な姿のアリスが本当の妖精に見えた。



「ありがと。今度何かお礼をするから」


「じゃあ、一緒にお屋敷でぐーたらしてください。一日中、朝からず~っと」


「そんなのでいいんだ」


「いいんです。遊びに出かけるのも好きですが、お屋敷の方が気兼ねなく、誰の目も気にせずに遊んでいられるじゃないですか」



 アリスらしい提案を俺は快諾し、アリスは楽しそうにサンドイッチを頬張りだす。

 俺もそれにならって、肉を挟んだサンドイッチを口に運んだ。

 美味い。溢れだす肉汁が喉を潤すたびに、それが一瞬で活力に代わるような錯覚に浸った。



「そういや、アリスたちの組の出し物って?」


「給仕喫茶です。男子は執事みたいな服になって、女子は私みたいな服って感じですね。……ただその、私の場合はちょっと胸元が苦しいので、服がパツパツしちゃってると言いますか……」



 言われてみれば、確かにそのようだ。

 アリスもミスティも、凹凸のある身体付きだから苦労しそうである。下心なしに同情していると、アリスは俺が一瞬だけその姿を見た事実に頬を薄っすらと赤らめた。




「――――グレン君には、特別なんですからね?」




 さっきは晒したくない服装と言っていたのに、よくよく考えれば俺はその姿を見せて貰えている。

 その特別扱いと今の言葉のせいで、俺の胸が早鐘を打たされた。



「午後からも裏方?」



 だからその早鐘を隠すわけではない、が。

 俺は何となく話をして反らしたくなってしまい、唐突な言葉を口走った。

 アリスはきょとんと丸い目でまばたきを繰り返し、くすっと笑った。



「私はこのお祭り中、ずーっと裏方ですよ。なのでこの可愛い姿もその期間限定です。ふとした瞬間に、屋敷の中で来てる可能性はありますけどね」


「……なるほど」


「グレン君はどうなんですか? 午後からもお仕事です?」


「うん。残念なことに、俺は明日の午前は仕事が詰まってる感じ」


「――――それなら、提案なんですけど」



 アリスが若干もじもじして、照れくさそうに言う。



「明日の午後は夕方まで、私と一緒にお祭りを見て回りませんか?」



 どうです? と。

 アリスは俺の手を取って尋ねた。

 俺には断る理由がない。

 だからすぐに「いいよ」と言って頷けば、アリスは踊り出しそうなくらい喜んでいた。



「おかわり、どうぞ」


「ん、ありがと」



 慣れた居心地の良さに浸りながら、素直に受け取ったサンドイッチを頬張る。

 美味い。二つ目のサンドイッチも絶品だった。



(午後からも頑張ろう)



 そう思い、咀嚼し終えてからうんと背筋を伸ばした。



「これから学園長室にいかないと」


「じゃ、一緒に行きましょっか。私の組の用事もあるので、ご一緒させてください」



 俺が立ちあがれば、丁度同じように食事を終えたアリスもベンチを立つ。

 歩き出した俺の半歩後ろを進む彼女は、俺のコートの裾を摘まんでトトトッと歩く。

 ……若干目立っている。

 けど、離せと言おうと思って振り向くが、



「はえ? なんです?」



 上機嫌に笑っているアリスを見て、つい気が引けてしまった。

 そのまま仕方なく学園内を歩き、あまり人が通らない廊下を進んで階段を上る。

 今日は人が多かったけど、裏道と言うか、人通りが少ない場所は幸いにも閑散としており、銀月大祭の影響を感じさせなかった。



 代わりに、妙なやり取りの声が聞こえてきたのだ。



「はん、島の生まれが偉そうに」


「――――あら。もう一回同じことを言ってごらんなさいな」



 進んだ先にある廊下の影からだった。

 二人分の声の片方はリムエルだろうが、もう一人は知らない者の声だった。



(また何かしたのかな)



 そう思い、無視も出来ないと考えて俺は声がした方角へ近づいた。

 アリスにはちょっと待っててと言ったけど、一緒に行くと言ったから連れたままで。



「そういえば、あの人に何か言ってくれる人が来るって話じゃありませんでしたっけ?」


「もう来てるよ。帝都に寄ってからもう一度こっちに来るって話だったから、もしかしたらもう父上と会ってるのかも」


「はえー……やっぱりすごい人がいらっしゃるんですね」


「あれ、ラドラム様から聞いてないんだ」


「聞いてないですよ。……グレン君は偶に誤解してますけど、お兄様は私に仕事の話はあんまりしてくれませんし。だから大怪盗が生まれたんじゃないですかー!」



 一理ある。

 というわけで俺は誰が来たのか、どんな人物が来たのか教えようと思った。

 だが、そう思いながら進んでいると……。



「ぶつかってきたのはそっちだろ。素直に謝れば済む話だろうが」


「だから謝ったじゃないの。それにもう一度言うけど、私は教員から頼まれた資料を運んでたせいで、あんたの姿が見えなかったのよ。でも素直に謝罪したでしょうが」


「そんなんで澄むかよ。お前がこれまでしてきた振る舞いを思い出せ。ついでにそのこともちゃんと俺に詫びるべきだろうが」



 話を聞いているだけで状況が見えてくる。

 曲がり角のせいで二人の様子はわからないけど、リムエルは恐らく、ケイオスからの留学生と衝突したのだ。

 リムエルはちゃんと謝罪したようだが、相手の留学生は過去のことも謝れと言っている。

 それはリムエルの身から出た錆であろうが、剣呑なのはあまりよくない。



 はぁ、と俺はため息を漏らす。

 いつの間にか隣を歩いていたアリスが背伸びをして、俺の頭を優しく撫でた。



「グレン君は今日も頑張り屋さんですね」


「仲裁だけだよ。それ以外をするつもりはない」



 こうして、俺は遂に曲がり角へとたどり着く。

 進めば、予想通りの二人組が剣呑な様子で対面していた。



 まさに一触即発。

 勘弁してくれ――――俺がそう思った刹那のことだった。



「やめ……て!」



 俺とアリスが歩いてきたのと反対側から、一人の少女が姿を見せた。

 背丈は平均値よりも遥かに小柄。

 褐色の肌と、肌に刻まれた黒い紋様が目を引く少女だ。



「アリス」



 俺はその人物の姿を見て、仲裁は必要ないようだと思い身を引いた。

 不思議そうに俺を見たアリスに声を掛け、彼女の手を引いて物陰に姿を潜ませる。



「そ、そんな……急に秘密の逢瀬みたいなことは……」


「アリスだけほっぽり出してもいいけど」


「冗談です。それで、あの小さい女の子がどうしたんですか?」


「さっき言った話だよ。例の、リムエルを折檻できるっていう人物のこと」



 そう、あの少女こそ俺が朝に顔をあわせた少女なのだ。

 リムエルの父であるギルラよりも上の立場にある、ラドラムが国賓として呼ぶと言っていた特別な存在のことである。



 ――――その名を、



ルトラト、、、、グレスデン、、、、、



 俺が少女の名を口にするや否や、アリスが唖然とした。

 そして、信じられない様子で口を開き、



「……なーんで、グレスデンの王女様、、、、、、、、、がいるんです?」



 真偽を尋ねてきたのである。

 だが、仕方なかろう。

 ミハエラがリムエルを折檻させると言って、ほぼ秘密裏に呼び出したのがその王女だったのだから。

 ついでに俺としては驚くばかりである。



(……自国の王女様に気持ちを寄せてるって聞いたときは驚いたけど)



 そして呑気なことを考えながらも、疲れを催す中でも理解した。

 どうやらあの王女様は帝都に行ってからフォリナーに戻ってきており、すぐにリムエルの様子を見ようと学園に来ていたらしい。



 ついでに、簡単に口を挟めなくなった状況をどうしたものかと考えながら、何度目か分からないため息を吐いた。



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