騒動が起こる前に。
先日も目の当たりにした七国会談が開かれる会場の前、前というか、片隅で潜むようにしてだったが、俺は見張りの騎士が巡回するのを見てひとり頷いた。
リリィには物陰で待つように言い、俺が一人で表へ出る。
幸いにも、この周辺は決して人の通りが少ないわけではない。
今は祭りのような催し事の最中とあって、住民に加え、観光客や冒険者の数が多く、俺のような姿をした者が浮くこともなかった。
傍から見れば、今の俺だって冒険者に見えないこともなかったのだ。
「っと――――すまない」
辺りの様子を見ていた騎士と肩をぶつけると、相手の方から謝罪してくる。
周囲にはまだ人が散見されることもあり、彼は自分の不注意と思ったようだ。
「いえ、こちらこそ申し訳ありません。酒に酔っていたようで。……おや? 何か落としたようですが」
俺はわざとらしくしゃがみ、善良ないち冒険者を装った。
石畳に落ちた鍵の束を拾って、それを騎士に手渡した。
「大切なもののようですね」
「これはこれは……お恥ずかしい。どうやら鉄が悪くなっていたようだ」
「見れば年季が入ってるようにお見受けします。おせっかいかもしれませんが、留め具を新調した方がよろしいかと」
「助言、感謝する。それでは」
騎士はばつの悪そうな顔を浮かべて俺の傍を立ち去って行った。
「――――さて」
ここに来る前にリリィから聞いた通りだ。
なんでも会場となる建物は年季が入っており、最近の重要施設と違い錠が旧式なのだと。レトロなそれは言うなれば、あり触れた金属の錠といったところか。
だが、その程度のセキュリティで問題ない理由があった。
そもそもとして、この建物は普段、一般市民にも開放されることもある公共の建物であり、機密を含む特別な情報が保管されているわけでもないそうだ。
それに加えて、七国会談の舞台となっても、参加する者たちが足を運ぶのは夕方までである。
警備体制は各国の者たちが足を運ぶとあって十分すぎることもある。
夜に何か仕掛けられることは懸念材料の一つだが、これに限っては、ホストであるリバーヴェルが全責任を負うため、相応の確認や支度がされるのだ、とこれもリリィから聞いていた。
「ただいま」
「…………お帰りなさいませ」
「え、なにその微妙な声」
「大したことではありませんわ。随分となれた手つきで、しかも騎士にバレないように腰の金具を破壊したものだと、驚いておりました」
「ああ、さっきのか」
先ほどの騎士だが、鍵の束やその金具が老朽化していた壊れたわけじゃない。
更に言うと、老朽化していたから俺とぶつかって壊れたというものでもなくて、単に俺がすれ違いざまにナイフで破壊しただけだ。
「ですが、どうするのです?」
「どうする、って?」
「私はてっきり、あのまま鍵を拝借なさるのかと思っていましたの。ですけどグレン様ったら、騎士に帰してしまわれたではありませんか」
「金具を壊して挙句に奪うとか、犯罪にもほどがあるでしょ」
「――――はい?」
「ごめん。冗談」
信じられない物を見たと言わんばかりの声色で尋ねられ、俺は思わず苦笑いを浮かべた。
リリィの疑問も分かる。
法を犯すことの是非なんて、俺たちには今更過ぎる。
更に実はこれから、もう使われていない古い出入り口から建物内に侵入する手筈となっていた。
扉を破壊してもよかったのだが、そこは後々、面倒な警戒をされてはたまったものではないから可能な限り破壊したくない。
となれば、別の潜入経路を探るところだったのだが、リリィに建物の仕組みを聞き、鍵を拝借することにした――――というのが、ここに至るまでの話である。
「鍵ならここにあるよ」
俺は懐を漁る振りをして騎士が持っていたのと同じ鍵の束を取り出した。勿論偽物だ。俺の魔法で複製された。
「いつの間に盗み直しておいでだったのですか?」
「盗んでないって。俺は鍵はちゃんと返したよ」
「であれば、それは偽物ですわね。グレン様、地の属性魔法の使い手でしたの?」
帝剣十席の魔法を思い出した。
あのように石を生み出し、精巧な偽物を作ったのかと彼女は聞いているようだ。
「適性はあるけど使ったことはないかな」
「でしたら、どのような魔法で偽物を?」
「秘密」
「…………」
「仮面のせいでよく分かんないけど、不満そうなのだけはわかる。でも駄目。やだよ」
教えるわけがない。
こうして偽物を作れることだって本当は明らかにしたくなかったくらいなんだから、これ以上のサービスは不可能なのだ。
しかし、ジルさんはやはり頭が良かったのだなって思ってしまう。
大陸中に名を轟かすジルヴェスター・エカテリウス女史にかかれば、俺が固有魔法もちなことまで看破されてしまうのだ。
日頃の振る舞いは何とも言えないが……天才というのはあのような感じなのだろう。多分。
「行きますわよ」
諦めたリリィは俺に先んじて宵闇に覆われた裏道に消えていく。
俺はと言えば、肩をすくめてから一歩踏み出そうとしたのだが――――。
「…………今のは」
「グレン様! 早く参りませんと!」
「あ、ああ……! すぐ行く!」
急かされたことでリリィの後を追ったけど、ほんの一瞬、見られているような気がした。それは遠くから、視認できない距離から。
その気配は気のせいと言うしかないほど早く消えてしまい、俺の心を僅かにざわつかせた。
◇ ◇ ◇ ◇
七国会談が開かれている建物はとんと静かだった。
これが仮に、公式にローゼンタール家とロータス家が会談をするとなれば話は別だったろうが、二人はそれをせず、忍ぶように話をしていた。
俺とリリィには、そのおかげで忍び込みやすかったように思える。
見張りらしき見張りは居らず、定感覚で見張りをする騎士が幾人かいたくらいだった。
『――――へぇー、そりゃすごい』
天井裏と言うにはあまりにも狭い空間。
俺とリリィが居たのは、換気ダクトのような狭い狭い場所だ。まさに目的だった二人の頭上から聞き耳を立てていた。
「ちょっ……グレン様……っ! 手、手が……そっちは胸の方ですから……ひゃぅん………っ!」
「ご、ごめん……っ!」
俺の名誉のために言っておくと、事故だ。
すべて、全部、オール。
俺の意思はどこにも介在していないことをここに宣言しておく。
「これで大丈夫?」
「…………平気、ですわ」
しかし狭すぎるからどこに手を置いても中々際どい。
もうほぼ全身が密着してるから、多少は我慢してもらわざるを得ないのだ。
「あのさ、大したことじゃないんだけど」
「事故とはいえ私の胸に手を押し当てたこと以上のことでないのなら、確かに大したことではないかもしれませんわね」
「ごめんって……。いやほら、なんかこう……互いに暗部っぽいことをしながら忍び込んだわけだけど」
「そうですわね。それがどうかしましたの?」
「傍から見るとすごい間抜けだよね、コレ」
何が悲しくて狭苦しいところに二人で忍び込んだのか。スタイリッシュさの欠片もない俺たちの様子は、傍から見れば気持ちを通じ合わせた男女がじゃれつくが如くそれでしかない。
「他に場所がないんですから、仕方ないではありませんか」
「ああ……そうだね。確かにその通りだ」
……俺とリリィがこうして奮闘している間にも、下で二人の会話はつづく。
『私の耳に届いたときも驚いたものだ。まさかあの聖地が、何らかの目的をもってレギルタス同盟を先導しているとはな』
『では、確定ですか?』
『そうなる。そしてそちらの情報と重ね合わせると、時堕・カールハイツは聖地にとって都合の悪い情報を知り、狙われたということになる。さらに掘り下げるのならば、聖地を発ちレギルタス同盟入りを果たした神官共は、ケイオスにたどり着く前に時堕が何か知ったことを悟り、奴に狙いを定めたと言ったところか』
『となれば、最初は何が目的だったんでしょうか』
『それが分からんのだ。私には聖地の目的は検討が付かん。――――だが、』
俺とリリィが半ば予想していた情報が詳細に語られていた。
俺たちは二人で忍ぶには狭すぎる天井裏で、互いの吐息と熱が届く距離でじっと耳を傾けつづける。
『ここからが本題だ』
『例の、レギルタス同盟
『――――私はそれを、周辺諸国への示威行為の一環ではなく、その後に開戦へ向かうべく動いていると考えている』
『不穏ですねー……怖い怖い』
『茶化すな。そなたのことだ。ある程度予想していたろうし、私の言葉を聞いて考えたこともあるだろう?』
それを語れとリジェルは語気で絆した。
『聖地がレギルタス同盟を扇動していることは明らかだ。近年、二国の間で金の流れが激しくなったこともそうだし、聖地の大司教がわざわざレギルタス同盟に足を運んだこともそうだ』
『大司教と言うと、預言者の教えを広げる五人の神官でしたか』
『そうだ。大司教は魔法の扱いにも長けた僧兵でもある。そなたも知っておろうが、奴ら大司教はガルディア戦争においても稀有な働きをした個人だ。――――もっとも、そなたらが保有する二大戦力にほどではないが』
『アルバート殿と魔法師団長殿ですね』
『――――そろそろいいか? 十分な情報を提供したろう?』
『では最後に一つだけ。私には疑問なことがありましてね。リジェル殿ほどの方が、先ほどの二つの情報だけで、レギルタス同盟が聖地に扇動されたと断言するのは疑問が残るんですよ』
僅かな隙間から見えたリジェルの顔が微かに歪み、ため息をついた。
『決定的な情報があるのでは?』
『聞きしに勝る知恵者だな、そなたは』
『お褒めに預かり光栄ですよ。ってことはあるようですね、決定的な情報が』
『あるとも。私の手の者が何人も、聖地とレギルタス同盟の関係を探っていたからな。奴らの間にある街道を含め、レギルタス同盟領内の各所に忍ばせていた』
『ふむ。犠牲者でも出ましたか?』
『放った我が手の者の、いずれも連絡が取れなくなった』
『ッ……へぇ……調べるな、って言われてるも同然ではありませんか』
『そうだ。我らリバーヴェルは今日まで大陸の中立を保ち、大陸に不穏な波が立たぬよう動いてきたが、このような状況は記録にない』
『あ、やっぱり暗殺とかしてたんです? 驚いたなぁ……』
『くどい。そなたの分かり切った反応はこうもつづくと腹が立ってくる。私の口が堅くなる前に、もう少し腹を見せるべきだと勧めておこうか』
『これは失礼。性分なもので』
俺はじっと耳を傾けていたけど、同じように耳を傾けていたリリィは眉をひそめていた。ここに来てから呼吸がしづらいと言って仮面を取っていたから、表情がすぐに分かる。
「どうしたのさ」
「……お兄様ってば、私に隠して調査をなさっていたんですよ」
「まぁ……俺もラドラム様にいつもそんな感じにされてるけど」
「気に入りません……私だってリバーヴェルのために命を懸けて賭して参りましたのに、どうしてこのような仕打ちを……」
「大事なんじゃないの? リリィのことが」
すると、リリィはきょとんとした顔を浮かべた。
俺と彼女はこの狭い空間で、一見すれば男女の営みをするが如く距離間で潜んでいたこともあり、彼女の動揺が良く伝わる。
「ふふっ……あのお兄様が私を大事にするなんて、あり得ませんわね」
自嘲したリリィの表情は消沈しているように見えた。
しかし、第三者から見ると――――前世も暗殺者だった俺からしてみると、リジェルは明らかにリリィを大事に思い遠ざけているようも思える。
それか実力を疑っているかのいずれかだが、彼女ほどの人物の腕に疑いを抱くことは考えにくい。
「でも」
「ほら、つづきを聞きませんと」
リリィがしーっ、と指を立てて俺の唇に押し当てた。
『お話しいただいたことから鑑みるに、レギルタス同盟は強い後ろ盾があるからこそ強気に振舞っているようにも思えますね』
リジェルが頷いて返した。
『それが世界中に影響力を持つ聖地なら素晴らしいことです。リバーヴェルも同じく強い影響力を持ちますが……レギルタス同盟と言えば、どの国よりも聖地の教えを強く信じておいでですからね。どちらをとるかとなったら、間違いなく聖地を取るでしょう』
『そして、影を放ったのは確かに我々だが、すべての影を秘密裏に処理するとも思えない』
『下手にリバーヴェルから謂れのないことをでっちあげられても面倒ですしね。リジェル殿であれば、それをしてレギルタス同盟への制裁を他国を交えて出すことも難しくありませんし』
『だが、レギルタス同盟はそれでも強気だ。奴らも馬鹿ではないし、聖地が付いているのなら、我らリバーヴェルが調査に動いていた事実を知っていてもおかしくない。知ってなお影を処理したのなら、やはりレギルタス同盟らしくないのだ』
その理由の予想が、ラドラムほどの男にできないはずがない。
『聖地の目的は分かりませんが、レギルタス同盟が、どのような甘言を受けて先導されたのかは思いつきますよ、僕』
『聞こう』
涼し気な表情を浮かべていたリジェルがぐっ、と僅かに身体を乗り出す。
『レギルタス同盟の軍部では不満が募っていたそうじゃないですか。なんでも、このご時世になっても異人へ差別的な振る舞いをする者がいることに対し、我慢ならぬ将官も多々いるとか』
『それは――――初耳だ』
『彼らレギルタス同盟の異人たちは、ガルディア戦争で団結して戦ったことへの誇りがあり、一つの大陸人としての意識があるのでしょう。そこに過去の辛い歴史もあり、今も尚変わらぬ状況に怒りが募るのも無理はありません。――――ま、シエスタは異人に対して特別な感情はないので関係ないですけど』
ラドラムは楽しそうに嗤う。
『聖地は人々の認識を正すべく特別な協力をする。その代わりに、聖地の目的を達成すべくレギルタス同盟も協力をするよう動きがあった、というのはどうでしょう?』
『愉快なシナリオだ。私からしてみれば迷惑なことこの上ない。が、どうやらその線が正しいようだ』
俺はラドラムの考えに端から端まで頷いた。
で、俺たちに対してどう危険なのかという話になる。
少なくとも、シエスタとしてはまだ直接手を出されたわけじゃない。時堕がアンガルダに居たことだって、あの男が意図したものじゃない。
言うなれば現状、シエスタはほぼほぼ蚊帳の外なのだが………。
『お察ししますよ』
俺と同じようにラドラムもその感情を吐露した。
――――しかし。
『自分たちだけ逃れられると思ったのか?』
リジェルの言葉がまるで腕のように、ラドラムを掴んで逃さない。
『あの……何ですかその言い方』
『第五皇子の件は大変だったそうだな。ところで、その第五皇子が生前、部下の名でとある国のかた田舎に家を買っていたことは知っているか?』
『うわぁ……嫌だなぁ…………知らないんですけど……ちなみにどの国にです……?』
『レギルタス同盟、だそうだ』
天井裏に潜んだ俺とラドラムが同時に溜息を漏らした。
俺の胸板のすぐ傍で身体を丸めたリリィは笑っている。
『第五皇子と繋がっていた貴族の中には、どうやらレギルタス同盟の貴族も隠れていたようじゃないか』
『あの程度の皇子がクーデターを企てるなんて無理あるなーって思ってましたけど……なるほど……ケイオス貴族に加え、聖地に扇動されたレギルタス同盟の貴族ともかかわりがあったわけですか』
『シエスタほどの大国で大々的に異人に対する声明を出せば、大きな影響がありそうではないか』
『もっとも、ケイオス貴族は聖地とレギルタス同盟の繋がりとは無縁でしょうけどね。これはこれで、あくまでも第五皇子にそそのかされたといったところでしょうか』
あくまでもケイオスとは別にレギルタス同盟ともかかわりがあったのだろう、こういう予想だ。
『第五皇子の評価を改めましたよ、僕。第五皇子殿下には、どうやら外交の才能はあったみたいです。もう死んじゃいましたけど』
『殺した、の間違いだろう』
『死んじゃったんですよ。粗末な船に乗るから溺れちゃうんですって』
さて、面倒な話になってきた。
まるっきり第三者として蚊帳の外に居たつもりなのに、こうなってくると、シエスタとしても知らんぷりでは居られない。
少なくとも、レギルタス同盟には、シエスタに対して動きかけたという実績が残ってしまった。
『情報を得たところで私という船から降りようとしたのだろうが、そうはいかん。そなたとて、この状況で私という協力者を失うことは好ましくなかろう?』
『…………残念なことに、聖地の目的が分かるまでは協力した方がよさそうなようで』
『そういうことだ。そもそもだが、レギルタス同盟に生息する魔物がそなたらの領内に現れたことも思えば、何らかの動きがあったと考えてしかるべきだろうに』
『分かってますよ。分かってましたけど、考えないようにしてただけです』
ラドラムはそこまで言うと、席を立った。
『これやだなぁー……シエスタに帰ったら陛下たちにも伝えないといけないじゃないですか……アルバート殿にも……いや、アルバート殿にもシエスタに帰ってからの方がいいか……』
『今後の話もしておきたいが、どうする?』
『今日は遅いのでまた明日にするのはどうです?』
『ああ。また、こちらから連絡しよう』
席を立ったラドラムは部屋を出て行き、残されたリジェルは一人、テーブルに置いていたグラスを口元に運び、勢いよく一息で呷った。
『――――予定通り、あの男を焦らして正解だったようだな』
するとリジェルはほくそ笑み、少し経ってからこの部屋を後にした。
俺とリリィはその後、もう少し時間をおいてから脱出しようと言葉を交わす。
「ラドラム様を焦らすって話はもしかして、会談中はラドラム様とリジェル様が出会わないようにってこと?」
「ええ。そうすれば、ローゼンタール公爵は自分から話しかけてくるだろうって思っていたみたいですわ。あくまでも相手から動かせることで、優位に話を進めたかったのではないかと」
「そういうことか」
リジェルも頭の切れる男のようだ。
あのラドラムを相手に大胆な立ち回りをするのは、素直に称賛に値する。あくまでもラドラムがどういうスタンスだったかは分からないけど。
それにしても――――。
(第五皇子があれだけの飛竜を使役してたことが不思議だったけど……)
これにはレギルタス同盟が、ひいては聖地の力が関わっていて、先日、ハミルトン領近くの森に現れた魔物もそうだったと分かった。
これには時堕に影響を与えた秘宝、聖石に似た、別のアイテムが使われたことは論ずるまでもない。
――――第五皇子が企て、失敗に終わったクーデターは、俺たちが思っていたより多くの国と人が関わっていたようだ。
◇ ◇ ◇ ◇
「――――って、今頃グレン君も
意気揚々と、嬉々とした足取りで歩くラドラムは部屋の外で爺やと合流し、大通りを歩いて宿へ戻る最中だった。
「それにしても僥倖でございましたね、旦那様」
「ああ! いい気分だよ! 第五皇子がどこから面倒な力を手にしたのかなーって思ってたけど、ここに聖地も関わっていたと明らかになったからね! もう最高の気分だ!」
「それに、リジェル殿の件もですか」
「――――勿論」
にやりと笑うラドラムは端正な顔立ちもあってみるも美しい。
すれ違う淑女は彼の顔を見て頬を染め、少し離れてから黄色い声を上げた。
「僕から話しかけるよう仕組んだつもりだろうけど、だからどうしたって感じだよ。でもまぁ、レギルタス同盟に影を放って、それが全員行方不明って話は興味深かったかな。おかげで色々分かったところさ」
「どうやら噂通りの才覚をお持ちのお方だったようで」
「そうだね。リジェル殿と話すのは楽しいよ! できれば末永く仲良くしたものさ!」
ラドラムは両手をポケットに差し込むと、気だるげに歩く。
しかし足取りは軽く、どこか憂いげな立ち居振る舞いがより一層、周囲を歩く淑女たちの視線を奪っていた。
「そろそろひと悶着ありそうだね。この町でも――――って、爺や? 上を見上げてどうしたんだい?」
「失礼致しました。何者かに見られていたような気がしたもので」
「へぇ……爺やが気が付いて見逃すなんて、珍しいね」
「――――勘違いだったのかもしれません」
そう言った爺やであるが、彼の表情は冴えなかった。
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