残された手段と。
もはや疑念はなく、確信のみ。
俺たちの足取りは勢いを収めることなく階段を進み、遂に巨大な歯車より上の高さへ。
最上層に設けられた部屋は普通の、四角形の部屋とは違っていた。
部屋は巨大な歯車を土台に天球上に造られており、扉と思しき出入り口は細かな歯車が合わさって出来た特殊なものだ。
それはすぐ下にある巨大な歯車に連動して、細かな動きを繰り返す。
鍵穴――――らしき箇所はなかったが、歯車は俺たちが来ると同時に回転を止め、左右にずれて道を作り出す。
まるで、俺たちを迎え入れるように。
『ハッハァ……ッ!』
その奥から、天球上の部屋の奥から笑い声が聞こえた。
眉をひそめた俺と対照的に、クリストフは「ああいう男です」と言い、俺の前を歩いて部屋の中へ入ってしまう。
僅かな迷いもなく、怖れもなく。
堂々と入って行ってしまった。
「グレン少年。私のそばに」
俺はすぐに返事をして部屋の中に入った。
頭上に広がる天井は数十メイルはありそうなほど高くて、一目見て夜空と勘違いしてしまう。壁紙でもなく、穴をあけて夜空を模しているようではない。
実際に、見間違いではなく、蛍に似た光が数多に瞬いていたのだ。
「あの光は――――」
「アレはあの男の領域内である証明です。……町中では見られませんでしたが、現状、この部屋があの男にとって最も重要な場所ということでしょう」
床もそうだ。
真っ暗闇の中に星々の光が瞬くような光景は、唐突に宇宙へ身体を放り捨てられたと言われても信じてしまいそう。
「
すると、面前から。
先日、絵で確認したのと同じ姿をした一人の男が。
「不思議だなぁ……! 我が盟友クリストフッ! どうしてお前がここにいるッ!? 俺の勘違いじゃなきゃ、ここは俺が愛するケイオスのはずなのに……ああ、不思議だともッ!」
「久しいですね。我が盟友、カールハイツ。貴方には聞きたいことがいくつも――――」
クリストフの足が止まる。
これまで見せなかった、驚きに顔を染めながら。
でも、それは俺も同じことだった。
同じく足を止めたクリストフと同じ方向を……時堕・カールハイツを見ながら、彼の両手を拘束した鎖を視界に収めながら。
「聞きたいこと……この時堕様に聞きたいことだって……ッ?」
時堕は――――。
カールハイツは両腕を天井から伸びた鎖に持ち上げられ、半ば吊るされた状態で顔を上げる。
額、そして首筋を伝う脂汗。
声も震えを孕んでおり、何かに耐えようと必死のよう。
…………どうしてこんな状況に。
…………間違いなく、時堕は彼にとって本意ではない状況にある。
「ハッハァッ! 何でも教えてやるさ………ッ! 何が聞きたい!? うちの国王がお熱の娼婦の名前でも教えてやろうか! それとも、王女様が飼ってる男の趣味でも聞きたいか……ッ」
「――――カールハイツ」
「いいや、お前のことだ! 俺の性癖かもしれないなッ!」
「――――カールハイツッ!」
「ッ――――ハッハァッ! クリストフ! 澄ました顔が台無し……だ……ッ!」
吊るされたカールハイツの顎から滴る汗が床を濡らす。
よく手入れのされた髪が汗に濡れて頬に張り付く。
しかし、不敵に笑って白い歯を見せ、眼帯をしたままクリストフを真正面に見る。
「さっさと逃げとけ。色男」
そう言うや否や、カールハイツの全身から光の粒子が舞い上がる。
色男と言われたクリストフは慌てて距離を取り、俺の前に立ちはだかった。
「誰にやられたのですか――――ッ」
「教えてる暇はねぇんだよ。いつもの澄まし顔を浮かべて……どっかに……行っちま、え……ッ!」
「カールハイツッ!」
「――――分かんねぇ男だな……! オレがこんな馬鹿みてぇな力を使えてる意味を考えろッ!」
辟易とした声を発した後。
目の当たりにした光景に対し、俺は目を疑った。
「くっ……」
クリストフと俺の周囲が様変わり。
前後左右、すべての方角から迫る光球。
一度まばたきをするだけで、今度は俺の立ち位置が変わる。いつの間にか宙に、いつの間にか天球に最奥に。
何処に居ても例外なく、俺たちの周りを光球が囲んでいたのだ。
(急に攻撃……いや、違う――――ッ)
俺はいつの間にかクリストフに担がれたまま、カールハイツを見下ろした。
彼の顔を見ると、依然として不敵に笑っているものの、頬はやや引き攣っているし、脂汗は留まることを知らず滴り床を濡らしている。
握り拳は僅かな力ながら、鎖を引き千切ろうとしているように見えた。
「俺はもう俺じゃなくなるぜ。……悪いな。アイツらの好きにさせたくないんだ」
首から上から力を失い、だらんと吊るされたカールハイツ。
対照的に、漂う光球の数は増す一方だ。
「逃げます」
「……えっ!?」
「一度この場を離れるほかありません」
今になって気付いたが、宙を駆ける俺はクリストフのエルメルによって、雷光と化していたらしい。目にもとまらぬ速さで居る場所が変わることの意味が、ここに来てようやく理解できた。
言葉を交わしている間にも、俺たちの場所が幾度となく変わっていく。
「カールハイツを止めようと試みましたが、このままでは私の魔法が届きません」
「こ、試みたって……ッ!?」
「数秒前にも試みたのです。しかし、あの男の力のせいで――――」
すると、迫る光球を避けるべくクリストフのエルメルが。
降り立ったのは扉の近く。
でも、いつの間にかまた宙に居た。
「試みたところでこうなるのですよッ!」
時間が遡っている。
逃げようとしたのに、気が付くと前の立ち位置に。
無論、それから幾度となく逃走を試みた。
それでも、何度試みても元の場所に戻される。
(どうやって逃げたら……ッ)
途中から更に状況が厳しくなる。
時を遡ることに加えて、時が飛ばされはじめたのだ。
俺たちがその中でも光球に触れず、まだ無傷で居られたのには理由がある。これこそ、クリストフがカールハイツを相手にしても大丈夫と断言していた理由なのだろう。
そう、単純な話だ。
クリストフの魔法なら、時を飛ばされた後にすべてを確認してから動き出せる。目にもとまらぬ雷光の速さで動ける彼は、カールハイツの攻撃を見てから躱すことが容易なのだ。
反則的だが、彼にはすべてが可能となる。
けど、それも時を遡る力が合わさって複雑な状況に陥っていた。
「やれやれ……ッ! あの男はこんな魔法を使うことはなかったのですが……ッ!」
それは光球でもあり、時を遡る能力でもある。
ある時は遡り、ある時は飛ばされる。
文字通り目にもとまらず、人知を超越した戦いの中――――。
「だから……言ったろ……色男……ッ!」
力なく、震えるままに顔を上げたカールハイツが言った。
するとすぐに光球が消え、この場に穏やかさが戻る。
「さっさと行けェ――――ッ!」
しかしそれも数秒に満たず、あっという間に元通りだ。
されど、俺たちが逃げるための隙はあった。クリストフのエルメルは阻害される事無く、時間が遡ることもなく今度は部屋の外に飛び出せるだけの隙が。
カタ、カタ――――。
機械的な音が鳴り、出入り口の歯車が元の位置に戻っていく。
「困りましたね」
と、クリストフ。
外に出て、落ち着きを取り戻した俺たちは呼吸を整える。
次いで、つい数秒前までのことを思い出して口を開く。
「あの男がこのアンガルダに居るのは、彼の本意ではなさそうですね。この大時計台に居るのもまた同じことです。どうやら、第三者の手によりこの状況に置かれているようです」
「……一番の問題は、その時堕を何とかしないと外に出られないことですね」
「ええ、その通りです」
せめて魔法を止めさせなければならないが、カールハイツの意思によるものではない。こんなことはさっきのやり取りで理解できている。
では、たとえば意識を奪うなどしてどうにかしたい。
目的は分かり切っているが、言うは易く行うは難しというものだった。
「宿に戻りましょう」
「あ、あれ……いいんですか……!?」
「もう一度時を遡らせます。最初に交わした無駄な問答を避け、問答無用でカールハイツの意識を奪うことに致しましょう」
「しかし、もう一度時が遡るかは分かりませんよ」
「グレン少年が言う通りですが、これまでのように戻ることを祈るしかありません。もっとも、これまで以上に警戒して一日を過ごさねばなりませんがね」
でも――――
この心配は、杞憂で終わることになる。
俺たちは夜になり時が遡りだしたのを見て、今日と同じように宿を飛び出し、大時計台へ攻め入ることになるからだ。
◇ ◇ ◇ ◇
「いっそのこと、大時計台ごと破壊するのはどうでしょう」
昨日と同じくエルメルで文字盤まで移動した俺は、針の上に立ち町を見下ろしながら口にした。
「昨日のようにカールハイツと戦う必要はありません。暴走したあの男が戦いやすい空間で戦う必要もありませんし」
「私も大筋には同意いたしますが、あの男が広げる空間は外部からの衝撃で破壊することが至難なのです。たとえ、この大時計台ごと崩したとしても、例の空間だけはそのまま宙に残るでしょう」
「……本当に面倒な力ですね」
「ふふっ……私もそう思っておりますよ。戦時中は重宝したのですが、相手になると面倒なことこの上ありません」
さて、と。
クリストフは昨日と違い、中につづく扉を開く前に振り向いた。
「私が一人で戦ってまいります。グレン少年はここで隠れていてくれますか?」
案に足手まといと言われてしまった俺は頷いた。
悔しいし、俺が付いてきたことの意義を疑ってしまうが、この状況下では致し方ないと言えよう。だって、昨日は何一つ仕事をできなかったのだから、控えていろと言われても仕方がない。
「そんな顔をするものではありません。ここに隠れていてもらう理由は、カールハイツが逃げ出した際にグレン少年に止めてもらうためなのですよ」
「…………りょーかいしました」
やっぱり、というか、クリストフは意外にも優しさがある。
事なかれ主義と父上は言っていたが、良く分からない。
俺が父上の子供だからというのもあるだろうが、彼は意外にも気を使える性格をしていた。
「では」
クリストフはそのまま中に向かい、残された俺は針の上に腰を下ろした。
そのまま夜風を浴びながら足をぶらつかせるという、傍から見れば危険なことを平然としていた俺は、ただ静かにアンガルダを取り囲む霧を見ていた。
やはり、霧の濃さは昨日までと変わらない。
変わらないのが当たり前となってきているが、少しぐらい外が見えてもいいじゃないか。
「はぁー……」
ここまでは気を紛らわすためにも辺りの様子を伺っていたが、どうにも悔しさが拭いきれない。
今、クリストフは正に戦っている最中のはず。
だというのに、俺はこうして夜風を浴びて町を見ているだけなのだ。
暗殺者の疑いを駆けられている今、何もしない方がいいというのもあるのだが……。
「何とも言えないか」
自身の存在意義を疑うのはやめられず、何か出来ることはないかと思ってしまう。
――――こうしていると。
不意に。
「…………ん?」
霧が極僅かに。
目を細めても差が少ししか分からないほど、微かに晴れたのだ。
思わず立ち上がった俺はハッとして、息を呑む。
もしかして、クリストフが勝ったのだろうか、と。
けど、それは違う。
十数分も過ぎた頃のことだが、すでに動いてしまった針を降りた俺が扉の前に座っていると、涼しい顔を浮かべたクリストフが戻って来たのだ。
「申し訳ありません。攻め手に欠けてしまいました」
申し訳なさそうに言った彼だが、誇るべきだ。だって、時を飛ばしたり遡らせられる相手と戦って無傷であるなんて、普通じゃないと思うのが当たり前なのに……。
「クリストフ様」
だけど、それよりも気になることがある。
「霧がさっきより晴れているように見えませんか」
俺に言われて霧を見たクリストフは目を見開き「これは……」と驚く。
つづけて、手を伸ばして俺の頭を軽く撫でた。
「良い発見をしましたね」
「……ど、どうも」
「恐らく、私が昨日以上にカールハイツの魔力を使わせたことの影響もありましょう。影響力が収まり、アンガルダを取り囲む魔法の力が薄らいだことにより、霧もまたそうなったように見えるのかもしれません」
ということは、魔力を消耗させることも解決の糸口になり得る。
それもそのはず。魔力は生命力と切り離せない概念だし、当然だ。
ただ何を考えたとしても、最後にはカールハイツとの戦いをどうするかに帰結してしまう。何度も考えたことではあるが、ここに俺が働ける余地は皆無なのだ。
「私が限界まで戦っても――――いえ……先ほどの戦いを思うにその線は薄い……」
消耗戦に持ち込もうと意図する言葉だが、気が進んでいないようだ。
腕を組み考え出したクリストフの横で。
俺はふと、あることを思い出して空を見上げた。
「今、気になったことがあります」
「――――つづけてください」
「先に教えて欲しいんですが、時堕は昨日の記憶が残っていましたか?」
「いいえ、すっかり覚えておりませんでした。時間遡行をした住民が記憶を失うように、魔法を使う彼もまた同じ状況に陥っていました」
「なるほど……だったら」
俺は夜空に向けていた顔をクリストフに向ける。
「夜に動きはじめたら、話は違うかもしれません」
「何を仰っているのですか。我々はすでに夜……に……」
さすが、クリストフは敏かった。
魔法師団長を任せられているだけある。
「グレン少年が言う夜というのは、時間が遡る前の夜のことですね」
その理由はいくつもあるが、言うまでもなくクリストフは悟ったらしい。
「試す価値はありそうです」
彼はそう言って頷くと、宿に帰るべく俺を担ぎ上げた。
その際に覗かせた横顔には、港町フォリナーを出てすぐに見た笑みに似た、晴れやかさが宿っていたのを俺は見逃さなかったのである。
◇ ◇ ◇ ◇
俺が口にした夜、というのは時間が遡る前。俺たちがここアンガルダに来た日の夜のことで、丸一日遡った結果の深夜ではない。
……宣言通り、次に俺たちは時が遡ることになる十数分前に行動を開始した。
黙って待っていれば、あと少しで時間が遡りはじめるだろう。
その結果、時間は巨大な歯車を入れ替えた数時間後に巻き戻され、まだ暴走する前の時堕・カールハイツの下へ行くことが可能になる。
「この時間に来て確信しましたが、カールハイツは常に抵抗をしていたのでしょう」
抵抗をする相手は、彼を嵌めた
これはカールハイツ本人も口にしていたことである。
ちなみに今日は昨日と違い、俺もクリストフと共にカールハイツがいる部屋の前までやって来ている。
「……そのようです。ただ、俺たちと違い、カールハイツは時間を遡るごとに記憶を失っているようですが」
「それはカールハイツが力を使いすぎたことによる弊害かもしれません。状況が状況なため、何が真実かは分かりませんが、多くを代償に抵抗をつづけているのでしょう」
つまるところ、カールハイツは幾度となく時間遡行を繰り返しても、必ず抵抗していたのだ。
俺とクリストフだけが記憶を保てている理由は気になるが、今はおいておこう。
――――となると、新たに分かったこともある。
時間をさかのぼることにより、何かの終了、あるいは何かの完成を遅らせているように思えてきたのだ。
たとえば、仮に二十四時ちょうどになったら出来上がる料理があるとしよう。カールハイツはその料理が完成することをよしとしておらず、暴走する中でも、自分が暴走の影響で得た力を用いて時間遡行をはじめるのだ。
これまで何度も時間遡行を繰り返していたことに加え、彼自身が口にしていた抵抗の言葉を思えば、これが正しいように思えてならない。
つまり、彼の魔力が一番消費されているのは今、この時なのだ。
「グレン少年のおかげで何とかなりそうです」
「それはよかったです。少しぐらい役に立てましたね」
「ですから、そう自分を卑下にするものではないとあれほどお伝えしたではありませんか……はぁ……頑固なところはアルバート殿ゆずりですか?」
「――――今日から改めようと思います」
別に父上に似ているのが嫌なわけじゃない。
これはきっと、ちょっとした反抗期的な何かだ。
俺は返事を聞いて笑ったクリストフから目をそらし、巨大な歯車の上に鎮座する天球上の部屋に目を向ける。
「早いうちに勝負を決めましょう。そうしなければ時間が遡りますしね」
クリストフがそう言って俺の前を進んだ。
彼は歯車の扉の前に立ち、開かれるのを待つ。
しかし、開かれる様子は皆無。
一向に動く気配がないと知ってから、彼は怪訝に思って手を伸ばす。
すると――――。
「ッ…………なるほど、何かの完成直前による弊害のようです」
彼の手があの光球に似た魔力に弾かれ、指先が真っ赤に妬けていた。
俺は大丈夫かと安否を尋ねようとしたのだが、不意に、大時計台そのものが大きく揺れはじめた。
巨大な歯車は昨日以上に勢いよく回転をはじめ、歯車全てが眩い魔力に包まれる。傍から見ていると、カールハイツの魔力が大時計台に流し込まれ、全体に行きわたろうとしているよう。
「歯車を止めればあるいは……しかしこの歯車はすでにカールハイツの領域の一部と化して……ッ!」
彼の独り言を聞いて分かったのは、カールハイツの力が広がっているということ。
だが、俺も同じことを考えていた。
歯車を止めれば、もしかしたら部屋に通じる扉が開くんじゃないか……と。
「クリストフ様ッ! 外部から時堕の領域を破壊することは至難と仰っていましたよねッ!?」
「よく覚えておいでだ……ッ! そうです! 外部からの破壊手段は極僅かなのですッ! しかし、それをしては私がグレン少年を守れない!」
「手段はあるんですね……それなら――――」
出来ない、とは言わなかった。
しかしそれには強力な攻撃が必要となるのだろう。時を操作する空間を破壊するのだから、容易に想像出来る。
幸いなのは、傍にいるクリストフがそれを可能とすることか。
「――――宿まで撤退しましょう! 俺に考えがあります!」
俺の声と目を見て、クリストフは数秒ほど黙りこくった。
信じるに値すると見極めたのか、それとも別の要因によるものか。
結果的に彼は慣れた手つきで俺を担ぎ出し、更に揺れを大きくしはじめた大時計台の中をエルメルで駆ける。
「舌を噛まないようになさい!」
宙に飛び出てからは、時間遡行がはじまる直前だった。
アンガルダを包み込む極彩色のオーロラが。
今まさに、
常識の範疇にない光景を醸しだし、人々ごと一日を遡らせる。
エルメル。
小さく、密かに聞こえた彼の声。
次の瞬間――――俺は。
(ほんっとーに早いな……)
あっという間に宿の屋上に戻っていて、あっさりと下ろされて元通り。
微量に残された雷光が乾いた音を上げるのを聞いてから。
「お聞かせください。グレン少年は何をお考えなのですか」
隣に降り立ったクリストフに尋ねられたことで、背の高い彼を見上げたのだ。
「俺も戦います」
「ッ――――何を馬鹿なことを言っているのです」
「いいえ、俺は本気だ」
「…………私は先ほど、カールハイツの魔力の奔流を感じました。グレン少年が言うように、時間遡行直後と比べると遥かに少なかったのは事実です。しかし――――」
「でも、クリストフ様は俺を守れないと」
それは、彼がカールハイツの空間に傷を入れるため。
彼自身がついさっき、可能ではあるが俺を守れないと言っていた。
「だからこそ、俺に考えがあるんです」
俺が戦うと言ったのが本命ではない。
確かに重要な手段だし、他に方法は残されていない。けど、俺だって今のまま時堕に勝てるなんて図に乗ったことは言わないさ。
だから……そのためにも……。
「こんなときに馬鹿をいうなってのも分かってます。でも、俺が戦力になるには……時堕を止めるにはこれしかないんです」
「……グレン少年、まさか貴方は……」
クリストフが眉をひそめ、やがて刮目した。
『
こんな時に彼女の言葉を思い出してしまう。
どうあれ、こうなってしまうなんて思いもしなかったさ。
――――ジルヴェスター・エカテリウス。
まさか、彼女の言葉通りになってしまうなんて。
時堕の空間の中で戦うため、雷光と化して移動する
そのために俺が口にするのは――――。
「――――お願いします。俺に魔法を教えてください」
雷帝・クリストフに教えを乞う。
残された道はこれだけだったのだ。
◇ ◇ ◇ ◇
確定ではないのですが、2020年はもう一度ぐらい更新したいと考えております。
暗躍無双で初のSSになる可能性もありますが、引き続き、お付き合いいただけますと幸いです……!
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