第8話 双子姫は死ぬ運命にあるという



 小百合に起こった現象を受け入れるのには多少時間が必要だった。


「超回復能力とか、超復元能力とか……そんなところなのか?」


 祭将は嘲笑をあからさまに見せて、


「お前の思考回路はやはりその程度か」


「その言い方はないと思うのだが?」


「予測だにしない出来事が起これば、脳が追いつかない事があるのは分かっている。だが、滑稽だと思ってな」


「……で、何なんだ、さっきのあの現象は?」


「この結界の中では双子姫は死ぬ事ができない。それだけの事だ。瀕死の重傷を負おうとも、時間の差はあれど回復してしまうのだ」


「漫画とかでよくある、不死人とでも言うのか?」


「似て非なるものだが、この館の中限定といったところだ」


「限定? つまり、この館を出てしまえば、普通の人とでもいうのか?」


「それは異なる。双子姫が何の加護もなく、この館を出てしまえば、その日のうちに命を落とす事であろう。それは免れようのない運命だ」


「……死ぬ運命にあるだと? 何故だ?」


「ファイナルデスティネーションという映画を知っているか?」


「映画の話題を何故急に振る?」


 祭将の口から俗世的な単語が出て来たものだから、俺は戸惑いを隠しきれなかった。


 その映画と双子姫に何の関係性があるというのだろうか?


「死ぬ運命にあった若者達が偶然にもその運命を回避するところから始まる映画なのだが、死ぬ運命にあった双子姫もその映画のようにこの西洋館に迷い込むことで死ぬ運命を回避してしまったのだ」


「……どういう事だ?」


「この西洋館はあの世とこの世の狭間にあると言っても過言ではない。迷い家(マヨイガ)のようなもの」


「ファイナルデスティネーションに、迷い家……か。フィクションの世界みたいだな」


 迷い家とは、訪れた者に富をもたらすという山の中にあると言われている幻の家の事だ。


 遠野物語にも載っている有名な伝承というか、今で言う『都市伝説』の類いのはずだ。


「フィクションの世界か。その表現は正鵠を得ている。ここは現世でも、あの世でもない、揺らぎのような世界。あの世に行くべき魂が、この館でゆらいでしまった。そして、狭間の世界に留まり、あの世にも、現世にも行けない存在になってしまったのだ」


「……つまり、この世界でしか生きられないと?」


「その通りだ。そこで、お前の出番と相成った。そうだな……」


 祭将は目を泳がし、何か思案した後、


「人の生命を数値化する……ゲームのステータスでいうところのHP(ヒットポイント)で数値化したのならば『100』としよう。そして、死をいうものをダメージで数値化するのならば『100』としよう。双子姫は現世に出た時に『100』のダメージを必ず負い死亡する。それを回避するためには、HPを『101』以上にすればいい」


「ゲーム? まあ、分かるような分からないような例えだが、つまり即死しないHPがあればいいという事だな?」


「その通りだ。HPを増やす作業は物の怪である我らにはできぬ。だから、お前がしなければならんのだ」


「そんな事が俺にできるのか?」


「そのために用意したのが、愛の巣だ。拷問器具を使い、双子姫を傷つけばよい。だが、憂う事はない。双子姫の傷は一日あれば回復する。その回復により身体が、いや、魂が強化される日がいずれ来るであろう。その日が訪れれば、現世に戻れば良い。100のダメージを受けるであろうが、101のHPがあるのだから死にはしない。そして、現世で幸せに暮らせばよい。桃子であれ、小百合であれ……二人共という選択肢もあり得るか」


 瀕死の重傷を負い、そこから回復したら、戦闘力が大幅にアップするという民族が出てくるフィクションがあったはずだ。


 ああいう事なのだろうか?


 桃子や小百合をあの愛の巣で傷つけて、強化していくという事か。


 そして、死の運命から逃れた後、結婚しろ、と。


 なんだ、この話は。


 メチャクチャじゃないか。


 俺は呆れを通り越して、変な笑いがこみ上げてきたので、声を出してついつい笑ってしまった。




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付喪神の双子姫 佐久間零式改 @sakunyazero

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