第7話使わないキッチン
私は転職をするために、スクールや職安へ通うようになっていた。
そのせいで宏に会うことが以前より少なくなっていた。
けれどスクールが休みの時は、なるべく今までのように宏の部屋に泊まっていた。
この頃から宏の機嫌が悪いことが増えていったような気がする。
いつものように目を覚ますと、私は出かける準備をした。
なぜかもう狭くて暗い部屋に居たくなくなっていた。
時計を見ると昼近くになっていた。
身体が寒かった。
きっと外は温かな日差しが射しているだろう。
着替えて後ろを振り返ると、宏はベッドでまだ眠っている。
いつも先に目が覚めても、私は宏の隣にいた。
物音を立てて起こしてしまわないように、仕方なく眠ったフリをしていた。
私はいつの間にか一緒に眠ることに苦痛を感じて、宏の温かな寝息を感じられずにいた。
私は玄関を開けて、暗い部屋を一瞥してから外に出た。
振り向くと、ベッドで横たわる宏は抜け殻みたいだった。
ドアを閉める。合鍵は渡されていないからそのまま鍵は掛けない。
以前に私が一人で出かけようとした時に、玄関の鍵は掛けなくていいと言われていた。
不用心なんだ……と思っても心配する言葉はかけられなかった。
私は思っている事をあまり人に言えずに、いつも躊躇してしまう。
こうしてほしい、本当はこう思っていると伝えられたらどんなに良いだろう。
でも人に嫌われるのは怖いから。
宏の生活にだって余計な口出ししない方が良い。
私にちょっとでも勇気があれば、不用心なことを注意できた。
喧嘩してでも合鍵を渡してもらえばよかったのに……。
私はいつも自分の為に黙っていた。
私の本音は……暗い部屋にいたくないし、朝起きたら二人で朝食を食べに行きたかった。
出来るなら小さなキッチンで良いから何か食事を作りたい。
上手に作れないかもしれないけど、宏に手料理を食べてほしかった。
暖かな日差しが照らす部屋で一緒に生活したい。
けれど実際のキッチンの食器かごは、長い間使ってないような食器が詰め込まれていた。
もしかしたらこの食器は誰かと一緒に使っていた時期があったのかもしれない……。
いつからこの状態なんだろう?
埃のついたお皿やコップがぎっちりと入った籠の中に触れることができない。
なぜか無理に食器を取り出したら壊れてしまいそうな気がした。
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