第6話すれ違い
宏と一緒にいるのに楽しいと思わなくなっていた。
けれど相変わらず週末は二人で過ごしていた。
私はカフェのテラス席のテーブルに、宏と向かい合って座る。
薄曇りの空は今にも雨が降りそうだった。
若いウエイトレスが注文を取りに来た。
なんとなくツンとした雰囲気の女の子だった。
私は今日のメイクとヘアスタイルが適当だったことを後悔した。
怠惰な女に思えて、自分が嫌いになりそうになった。
嫌な感じだと思ったけれど、この格好じゃ自分に自信も持てなくて下を向いていた。
宏はブレンドを注文したけれど、無言のままのウエイトレスが聞いていないと思ったようだ。
そしてもう一度「ブレンド!」と大きな声で言った。
その女の子はちょっと驚いた表情をして宏の見た。
それからすぐに笑顔になって「ブレンドですね。」と注文を繰り返した。
その様子をぼんやりと眺めながら、私はその女の子を可愛いと思っていた。
制服は紺色で首元の白リボンがキュッと結んでいて、白いフリルのエプロンはその娘に似合っていた。
不愛想とはいえ、私が経験したことがない接客業ができるのは羨ましい。
ウエイトレスが立ち去ると、私たちには周囲の雑音だけが響いていた。
私はそのウエイトレスの女の子の方が宏に合うのだと思った。
気が強そうだから、宏の態度に振り回されずにいられるかもしれないし……おまけに顔が可愛い。
そんなくだらない事を考えていた。
私が宏に吊り合わないと思っていたのは、本当はもっと前から感じていたことだけど。
私は「何か怒ってるの?」と聞いた。
宏は「別に。」と答える。
運ばれてきたコーヒーと紅茶を無言で飲んだ。
ずっと我慢していたことを問いただしてみた。
「同じ課のA君に私の事を紹介してくれないのはなんで?」
宏はちょっと顔をしかめると、面倒くさそうに言う。
「Aには言えない事もあるんだよ。」
会社での私達の関係が引っかかっていた。
周りの誰にも言えない、こっそり付き合う関係は本当は寂しい。
でも誰にも祝福されないのはたぶん私のせいだと思っている。
私が職場でもっと仕事ができて正社員で、親しい友人がいて周りからも慕われていれば宏は自分の友人に私を紹介できたのかな?
そう考えると、これ以上聞くことができなかった。
実際の私は、仕事も何もかも一生懸命やったことがないダメな女だ。
根も暗いし取り柄もなくておまけにダサい。
そして思い通りにならないことを何かのせいにしている。
本当は現実から逃げている自分のせいなのに……。
私は自分が大嫌いだ。
──話したいことが見つからない。
今日は何をしようとか、それすら思い付かない。
この先はたぶん行き止まりだ。
目の前は壁だと知りながら、その辺りをウロウロしているだけなんだ。
一人じゃ寂しいから、心が通じていないのを知りながらも一緒にいた。
ひょっとして宏も惰性で私といるのだろうか。
私達は何処にも行く場所が無いのかもしれない。
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