第3話日常

目を覚ますと、隣で寝ている宏を起こさないようにこっそりとベッドから下りる。

 部屋の電気は付けない。

 私は電化製品から漏れるわずかな灯りを頼りに、物音を立てずに慎重にキッチンへ向かった。

 ワンルームの小さな部屋は、テレビと本棚とベッドを置いたら歩くスペースはほとんどない。

 おまけのようについているミニキッチン。

 ここの電気は眠っている宏の方まで灯りは届かない。

 私は電気のスイッチを押すと、水を飲むために冷蔵庫を開けた。



 週末は宏のアパートに泊まっていた。

 付き合い始めの頃は、毎週末どこかへ遊びに行っていたけど、お金のことを考えて次第に行く場所も限られてきた。

 今では近所のカフェや漫画喫茶で時間を潰したり、家でDVDを観て過ごすことが増えていった。


 代り映えの無いデートでも、私は宏と二人でいられれば幸せだと思っていた。

 私は多くを望んでなかった。

 いつまでも2人の関係が続くことを信じていた。

 それなのに一緒にいても1人でいるような寂しさがあった。

 

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