蛇足

「かばんさんが……僕のお母さん?」

キュルルは、信じられないといった表情でかばんを見た。


「違うわ。君は、セルリアンの女王の雛で、私はヒトのフレンズ。恐らくは、君のお母さんの髪の毛にサンドスターが当たってフレンズ化したのが私なのかもね」


「髪の毛からフレンズができることがあるの?」


「キョウシュウ地方からヒトのフレンズが来たことがあるのだけれど、彼女はパークガイドの髪の毛から生まれた子よ。パークガイドの帽子から突然現れたって、かばんちゃん……いえ、その彼女に同行してたフェネックのフレンズが言ってたから」


 説明を受けてもよく分からない。彼女の話によると、同じ島からは同じ動物がフレンズになることはないけど、別の島にいけばその限りではないんだとか。


 てっきり、私達は研究室に行くものだとばかり思っていたのだけれど、かばんのバスに乗せられてきたのは巨大なイルカみたいな何かが乗った建物だった。


 しかも、そこは海の上にぽつんと立っている。正直な話、橋がそこ(ジャパリホテルというらしい)とつながってなければ一目散に帰ってるところだ。


「キュルルが女王の雛であることは間違いないと思う。ただ、何かの間違い……いえ、女王のミスで普通の人間が生まれたみたいね。だから、君に会わせることにしたの。キュルルのオリジナルにね」


 ホテルの中に入ると、果たしてそのヒトはそこにいた。キュルルとは毛皮の色が違っているけど、このヒトの匂いはキュルルと同じ匂いだ。顔つきも、言われてみれば似ている気がする。


「きみが、キュルル君だね。初めまして、僕は桐生優です。キリュウでもユウでも好きに呼んでくれて構わない」


 キリュウの話によると、彼は子供の頃に池の絵を描いてるところを女王に襲われたのだそうだ。


 でも、当時親しくしていたサーバルキャットのフレンズに助けてもらったものの彼女は動物に戻ってしまい、女王は卵を建物に生み落として絶命したんだとか。


 かばんは、キリュウとは別のヒトと話してる。彼女の名前はトモエと言い、シシン?というのをここに運んでくることを条件にジャパリパークに来ることを許可されたのだとか。


「ユキちゃん。怒ってませんか?」

「それはどうでしょう。でも、ヒトに敵対心はもってないようですよ」

「それだけわかれば、十分です」


 かばんは、トモエというヒトをイエイヌのところに連れていくからまた明日ね。と言って二人でホテルを立ち去った。どうやら、ユキちゃんっていうのはイエイヌに付けられた名前らしい。


 よかったじゃない、イエイヌ。思いが叶って。名前を付けられるぐらいなんだから親しい子なんでしょ、多分。


「ぼくの……僕のおうちは、どこにあるんですか?」

キュルルの泣きそうな声に私は再び彼に意識を向けた。


「君はおそらく、女王に「おうちに帰りたい」という心を強くコピーされた子供なんだと思う。でも、気を強く持ってほしい。――君の探すおうちは、このパークの内にも外にもない」


「嘘だ……嘘だ………うそだ!ウソダ!!嘘だあ!!!」

キュルルは壊れたように叫ぶと、どこかへと走り去ってしまった。


「キュルルちゃん!!」


「僕は、酷いヒトだと思うかい?サーバルキャット」


「ううん。キリュウは、嘘が付けないまっすぐなヒトだと思うよ。本当にひどい人なら、気を強く持てなんて言わないも!だから、私がキュルルを探すね」


 そう言って、サーバルはキュルルが走っていった方へ向かっていった。


「君は行かないのかい?」

「私は、口下手だから余計傷つけるかもしれないしね。それより、あんたのことが聞きたいわ。あんたのことを知れば、キュルルのことが分かるかもしれない」

「つまらない男だよ。僕は」


 彼の話は半分以上分からなかったけど、楽しく生きていることが分かってホッとした。後でサーバルに聞いた話によると、キュルルは高台の上で今まであったフレンズの絵を描いていたんだそうだ。


 ほんと、飽きない奴ね。


(アニメ本編12話に続く)

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おうちにお帰り 珈琲月 @bluemountainga_1bansuki

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