後編

「やめてよ!?ビーストさん!!」


 キュルルは、ビーストの背中にそう叫んでいた。でも、彼女は意に介した様子もない。そんな中、探偵コンビが木にぶつかって明後日の方向へとはじけ飛んだ瞬間、二人に光が当たった。


 かばんのバスだ。そして、ビーストに何か液体のようなものがかかると彼女は驚いたのかどこかへと走り去ってしまった。


「我々の作戦が、成功したのです」

「我々は賢いので」


「かばんさん!!ビーストさんに、何をかけたんですか!?」

「これだよ」


 そういってかばんはジャパリソーダを思いっきり振ってふたを開けると、キュルルの顔にそれをかけた。


「かばんちゃん!?キュルルちゃんに、何をするの!?」


「ひょっとしたら、キュルルは人間の姿に化けたセルリアンかもしれないから試してみたんだ。でも、ジャパリソーダをかけても変化がないってことは、少なくともセルリアンではないってことだね。ごめんなさい」


 かばんからタオルを受け取ると、キュルルは不機嫌そうにそれで顔と頭を拭いた。


「どうして、僕がセルリアンだって思ったんですか?」


「女王の卵の様子を見に行ったら、どうやら雛がかえったみたいなんだ。それで、一番怪しいのが君だからね。何しろ、このパークにヒトはいないはずだから。あー、もう!こんなことになるなら、イエイヌのお願いを断って卵を燃やせばよかった」


 その卵は、元々燃やして灰にするつもりでいたらしい。でも、イエイヌにこの中にいるのはきっとヒトですからこのままにして下さいとお願いされて折れたのだとかばんは言う。


「資料によると、確かに女王は一人の子供を取り込んだんだって。でも、その子は何とか助けられて自分のおうちに帰ったんだ。そして、その子はちゃんと寿命まで生きたそうだよ。キュルルが雛じゃないってことは、別の誰か……」


 不意に、サーバルの方向から光が発せられた。サーバルが持ってるのは、ジャパリソーダだ。


「本当だ。スケッチブック、消えちゃった」

確かに、サーバルの足元にはセルリアンを倒した後みたいにサンドスターが散らばっていた。


「ちょっと、サーバル!!それなくしたら、これからどうやっておうちを探すのさ!!」

「サーバル?スケッチブックって、何?」

そう言えば、キュルルってかばんにはスケッチブックを見せてないわね。


「絵を描く板だよ。絵っていうのは……」

「それは知ってる。スケッチブックはキュルルの持ち物で、試しにジャパリソーダをかけてみたらサンドスターになった。ということで合ってるかな」


「うん!合ってるよ!」

「うん!合ってるよ!……じゃないよ!!」


  そう言うと、キュルルはどこかへと走り去った。って、そっちはビーストが逃げていった方向じゃない。


 私は慌ててキュルルを追いかけると、かばんもバスに乗って追いかけてきた。屋根にはさっきまでオオコノハズクとワシミミズクが乗っていたが、中に入ったのだろう。代わりとばかりに、そこでサーバルがスフィンクス座りしている。


 キュルルは……、いた。無事でよかったけど、少し首を上にあげている。まるでそこに向かって話をしているかのように。でも、当然そこには誰もいない。星でも眺めているんだろうか。


「キュールルー!!」

「キュールルちゃあん!!」

「あ」


 キュルルは、こちらに気付いたようでこちらを見てすぐ後ろを見た。まったく、何してるのよ?


「ここに、誰かいなかった?」

「いないわよ」


 目はどうか知らないけど、私はあんたより耳も鼻もいいのよ。他に誰かいたら、さすがに気付くわ。


「キュルル。このジャパリパークには、ヒトが住んでいた都市の跡があるのよ。おうちの手掛かりがあるかもしれないからそこに行ってみない?」

「というか、そこで資料を見つけたのです」

「そこに、お前が映ってる写真と言う絵を見つけたのです」


 キュルルは、その言葉を聞いてヒトが住んでいたという都市の跡に行くことに決めたらしく、「お願いします」と言ってバスに乗り込んだのだった。待って、私も乗るから。


「結局、キュルルの絵はもう手元にこれしか残ってないのね」

椅子に座って、私はイエイヌから借りた絵を広げた。


「そういえば、イエイヌさんに何か渡されてたね」

キュルルがそう言って絵をのぞき込むと、キュルルはぎょっとした顔でかばんを見た。


「かばんさんが……僕の、お母さん?」

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