第13話

同期の岡崎に情報の収集を頼んでから二日が過ぎたころ、岡崎から連絡が来た。その日往古は非番だったので、岡崎が赴任している署まで足を運んだ。

署の近くにファミレスで待っていると、暗い表情の岡崎が現れた。

「渋い顔してるな、何か分かったか」

「往古、お前本当に気をつけろよ。本部のなかには名古屋の組と繋がっている奴もいるからな」

「そうだろうな、何と言っても今は日本で一番でかい組織になっているからな。政治家との繋がりもあるらしいし」

「俺たちはマル暴のプロじゃない。仮にも俺は一時在籍したことはあるが、お前はマル暴は初めてだろ」

「そうだな、パトロールで薬犯を上げたくらいだから、極道の世界は馴染みがないことは確かだ」

「そこを考えろ。お前が刑事魂を奮い立たせても、壁が高いぞ」

「回りくどい話し方は止めてくれ。本筋を聞かせろよ」

「府警の先輩の話では、名古屋の組はいま内部抗争が始まっているらしい。組長グループと若頭グループで揉めてるという話だ」

「そんなことは聞いたことがない」

「そうだろ。抗争するかも知れない敵のほうが情報が出やすいんだろう」

「極道、独特な世界だな」

「そこで今回の事件だ。恐らく、北陸系の組のなかで名古屋の組のどちらかと繋がっている奴らがいるのだろう。そいつらと関西の組が組んで、名古屋の組内で揉めさせて組織をがたがたにしようというんじゃないかと言うんだ」

「俺と組んでいる上津という刑事は若頭と懇意なようだ」

「そいつは怪しいな。お前にこの情報を伝えていないのが腑に落ちない」

「言われてみれば確かにそうだ」

「お前独自のルートで名古屋の組を探らなければならない必要が出る。だが、そうなるとお前の存在を煙たがる奴らが出てくる可能性がある」

「極道が恐くてマル暴なんかやれない、と俺は思う」

「お前の気持ちは分かるが、心配だ」

「何かかればお前が俺の骨を拾ってくれ」

「そんなことは俺には出来ない。同期の仲間としての忠告はしたからな」

「同期として頼む。府警の先輩の線で、俺の情報源になってくれそうな名古屋の組の奴を紹介してくれないか」

岡崎はしばらく考え込んだ。

「今のお前には何を言ってもだめだな。時間をくれ」

岡崎はそそくさと署に戻っていった。

往古は、これでいいと何度も自分に言い聞かせた。

それから二日後、岡崎から連絡があり、名古屋の組の系列の愛知県のある組の幹部の名前を告げられた。

「相手には連絡を取るから、後は直接連絡をしてみてくれということだったが、どうする」

「もちろん会うよ。後は俺の力量次第ということだ」

「ともかく気をつけろよ」

「すまん、恩に着る」

府警の先輩から紹介された男は、愛知県南部の都市に本部を置く、やくざの組としては比較的歴史の浅い組の幹部だった。

肩書きは「若頭補佐」。

教えてもらった携帯に電話するとその男が出た。

「わたしが晴山ですが」

「県警、組織犯罪対策課の往古といいます」

「府警の○○さんから話は聞いてます。こっちまで来てもらえば会ってもいいですよ」

「忙しいところすいません。ぜひお会いしたい」

「あなたはマル暴にしては腰がひくいですな。お会いしましょう」

往古は胸が高まっていた。自分もいっぱしのマル暴の刑事になったような気がしていた。

それから三日後にその男がいる愛知県南部の都市に勤務が終わってから自分の車で向かった。



⑭に続く。







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