第11話

殺されたのは北陸の暴力団の組員だった。

しかも往古たちが追跡した不審車両を運転していた男だったことから、俄然暴力団同士の抗争の要員だったと判断され、捜査本部が管轄署に設置された。

所轄からは刑事課の強行班をはじめ総動員体制で、本部からはマル暴の刑事たちが参加していた。

第一回の捜査会議では、組関係の情報収集が主な内容になった。

「本部の組織暴力対策課の方々から情報を提供していただき、本署の総力で本事案の早期解決を目指す」という署長の訓示があった。

マル暴ではベテランの部類に入る上津は、今回の抗争の主役、名古屋市の組の担当だったので、捜査本部の期待を一身に背負うかたちになった。

他の捜査員を尻目に圧倒的な情報量を持っていたからだ。

上津はさっそく若頭に連絡を取った。

だが、彼が言うには北陸の組員のことはまったく知らないという。

関西の敵対する組の系列なので詳しくないということだった。

「知らないはずがない。末端のチンピラならともかく、兄貴分クラスの奴のことを知らないというのはおかしい」

上津は不満そうだった。

「やはりもう一度会いに行きませんか」

往古は提案した。

「その前に腹を割って話せる奴に会う。あんたはここで待機していてくれ」

「誰なのかくらいは教えておいてください」

「組の幹部だということだけは言っておく」

上津は飛び出していった。

しばらくして、捜査本部にある情報が届いた。

大阪の中央署に今回の殺人事件の犯人と名乗る男が出頭してきたということだった。

往古はあれっと思った。何で名古屋じゃなくて大阪なんだろうと。

出頭してきた男は北陸の組の若いものだった。

詳しいことは捜査本部のある所轄に移送してきてからの話だったが、マル暴の刑事たちは一応に「身代わり出頭」だと思っていた。


翌日、出頭してきた男が大阪から移送されてきた。

男は湯浅健太郎23歳。

まだ組の準構成員で、親分からの杯を受けていない半端者だった。

「いつもの手だな。どうせ取り調べでは黙秘だろう。殺人行為だけは認めて、あらゆる状況説明は黙秘にするだろうな」

上津はこの事件がこれで終了したかのような顔をしていた。

「本当にいいんですか、これがマル暴の捜査なんですか」

往古はいきり立った。

「あんたみたいな外野に分かるはずがねえだろ。やくざに対してはやくざとしてのやり方があるんだよ。誰が本星だなんてことは関係ねえ、とりあえず星が上がれば警察も市民も喜ぶ。どうせ組の連中がやったことなんだから、連中のなかで解決されればいいんだ。余計な税金を使わずに済むしな」

「事件の本星を捕まえるのが自分たちの本分だと思います」

「青臭いこと言ってんじゃねえよ。そんなことより、これからが本当の俺たちの仕事だろ。抗争が始まるんだからさ」

往古は怒りの持っていき場所を探した。

だが、それはどこにも無かった。

それが今の警察組織なのかと思っていた。

その一方で、自分は正しい警察官でありたいと決意していた。

いずれ今回の事件の全貌を暴いてやる、まるでジャーナリストでもなったかのような正義感が沸いてきているのを感じていた。




⑫に続く。






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