第5話

12月8日午後1時32分



往古たちが追い込んだ暴力団関係者のクルマは、廃工場の敷地に逃げ込み、運転者らは姿を消した。

マル暴関係の車両ということもあり、県警本部から組織犯罪対策課の刑事たちも現場に到着していた。

そのなかに、愛知県警組織犯罪対策課第二課、いわゆる「マル暴」の上津刑事もいた。

「北野組の関係車両か。殺し屋でも運んできたのか」

上津刑事は同じ課の畑中刑事に向かって言った。

「そうかも知れませんね。ここ数日がやばいと思っていたので」

北野組は名古屋を本部にする「立川組」の主流派に対抗する大阪のやくざだ。

すでに北野組は立川組の舎弟頭を射殺している。

クルマを鑑識活動していた鑑識課の課員が、何か発見した。

「拳銃の部品です」

殺しのプロなら拳銃を解体して掃除や点検をしたりする。

その際に落ちたものだろうか。

いずれにしろ、銃器そのものより、部品や弾薬の予備が見つかることのほうが大掛かりな出入りの予感をさせる。

「逃げた奴はどこに行ったのか。この付近にヤサでもあるのか」

上津は眉間にしわを寄せて険しい顔をしていた。

抗争が過激化すればマル暴は不眠不休で働かなければならない。

以前のマル暴は、組織内部の情報を得るために「ミイラ取りがミイラ」になることが多かった。

つまり、暴力団に取り込まれるのだ。

そのために、最近では深入りする前に定期的に部署を異動させて対応しているが、逆に組織に深く入り込める人間がいなくなったことで組織の情報が不足していることもある。

上津も以前は地域課にいた。

それでも、繁華街を所轄に持つ署にいたので、やくざとの接触もあり、ずぶの素人というわけでもなかった。

とりあえず、見つかった拳銃の部品から拳銃の型を割り出してどこの組織がその銃器を使用している確立が高いかを判定して捜査を始めなければならない。


往古たちは、現場で県警本部の刑事課の刑事たちから聴取されていた。

当該車両を発見、追尾したときの状況、追い込んで停車したあとのことなどをしつこく聞かれた。

往古たちはありのままのことを報告することしか出来なかった。

「取り逃がしまして申し訳ありません」

往古は刑事たちに深く頭を下げた。

一通りの聴取が終わると往古たちは平常のパトロールに戻った。

「すいません、自分も頭を下げなくてはいけなかったのですが、どうにも悔しくて」

「いいんだ。仕方ないだろ。どう考えても普通じゃねえ。俺たちは追い込んだんだ。それなのにあっと言う間に姿を消しやがって。どう考えても分からない」

「あそこから、どう逃げたのでしょう」

「塀を乗り越えていったんだろうけど、その先が分からないよな。どうして非常線を突破できたのか」

「まだ近くにいそうな気がします」

「俺もそう思う。だからもうちょっとここら辺にいよう」

「はい、分かりました」

そう言うと川戸は次の道を左折し、現場の方向へ向かっていった。




⑥に続く。




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