第4話
12月8日午後零時38分
逃げたレクサスは、工場のなかに逃げ込んでいた。
往古たちがレクサスの後ろに付けたときには、ドアが開け放しになっていた。
往古は腰のホルスターに指をかけてクリップを外し、いつでも拳銃を出せるようにしながら、ゆっくりと近づいていった。
運転席にも助手席にも人はもういなかった。
エンジンはかかったままだった。
工場の敷地の入り口にある広場にレクサスは停められていた。
見回すと、工場のシャッターは閉じられ、人の気配がなかった。
「川戸、裏へ回れ。俺は無線で現位置を報告する」
「はいっ」
川戸は裏手に回りこんでいった。
無線で報告すると、往古は川戸が向かった側の反対側に向かって駆け出していた。
コンクリートにそって細い空間があった。
そこを進んでいくと、工場の建物の裏手に出た。向こうから川戸が往古の方に向かってきた。
「いません」
「塀を昇り越えたのかな。何か音はしたか」
「いえ、しませんでした」
往古たちはパトカーに戻った。
「運転者と同乗者ともクルマを乗り捨てて逃走。応援が到着するまで現地にて待機する」と無線で本部に報告し、川戸は表通りまで行ってみたが、人影は見当たらなかった。
「逃げ足が異常に早いですね」
「そうだな、土地勘があるかも知れないな」
「クルマの持ち主は分かりましたか」
「そうだ」
往古は本部にクルマの使用者を問い合わせた。
本部によると、関西を拠点にした指定暴力団の幹部の親族のものだったことが分かった。
レクサスのなかを覗くと、一見したところ何も無かった。
詳しくは鑑識が到着するまで触ることは出来ない。
このクルマで何らかの犯罪が行なわれたわけではないが、抗争中のマル暴の関係車両となると、何が出てくるか分からない。
自動車警ら隊の隊員がおいそれと手を出す物ではないことは往古には充分分かっている。
応援の車両が次々に到着していた。大きなサイレンを鳴らして到着したから、近所の住人らしき野次馬が数人こちらを覗いている。
警ら隊長の山岸も到着した。
「すぐに緊急配備をしたが、当該者らしきものの発見報告はない」
往古たちは不思議に思った。
往古たちが現場に着いたときにはもう運転者らは逃走した後だった。
人気も無い、廃工場のなかに入るような入り口は確認したが無かったのだ。
シャッターは閉まり、ドアも鍵がかけられており中には入れないし、一時的に中に隠れて往古たちが工場の裏手に回った隙に逃げたとしても何の音も聞こえなかった。
往古たちが追いついたのは一分も掛からなかったはずだ。
どこに消えたのだろうか。実に不思議だった。
その後、工場の持ち主に連絡して、鍵を開け、工場内部を検索したが人がいた形跡もなく、鍵や窓をこじ開けた形跡はなかった。
つまり、クルマを離れた者たちは、大きな音もたてずにコンクリートの塀を乗り越え、となりの敷地を抜けて別の道を逃げたということになる。
しかも、緊急配備された警察車両や地域課のポリスたちの目も触れずに逃げたということだった。
往古は深いため息をついた。
⑤に続く。
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