Night of slaves(11)

「––––––【サーヴァスジェミノス


 酷い二つ名もあったものですね。大富豪に買われ、ひたすら異種族を狩り続けることを義務付けられた双子の姉妹」


 エルフさんの口調は淡々としながらもどこか憂いを帯びている。


「はんっ!知ってたのかエルフ。同情してんじゃねえよ。


 アタシらは必ず自分を買い戻すんだ。......って言っても、もう終わりだけどな」


 何かを諦めた口調。握った拳が開いていく。最後のほうは聞き取れなかった。


「......もう、狙ったりしねーよ。テメェも妹の吸血鬼も、ついでにエルフもな。それに、また狙っても今度はそこのエルフに殺されることが目に見えてるからな」


「わかった。それなら.....いい」


 単なる口約束。保証なんてない。それでもあの暴力暴言上等の楠 アメリが言うのだ。信じてもいいだろう。


 エルフさんと魅夜が僕の肩を支えて持ち上げる。


「楠 メアリはそっちで寝かせています。傷は治癒してあるので起きたら連れて帰ってください」


 エルフさんが指差す先には月の光に照らされて外套の上に仰向けのまま寝ている。


「殺してねえとはな。揃いも揃って甘いやつらだ」


 口調とは裏腹にその顔は笑っていた。


 体を支えてもらいながら廃ビルから出ようとするそのときだった。


「お兄、ちゃん、その......」


 呼ばれて足を止めると魅夜は何かを言い淀んでいる。


「魅夜?」


 言葉を促すように名前を呼ぶと、顔をこちらに向けて意を決したように口を開いた。


「あの、人、達、連れて、行き、たい、です」


「......」


「......」


 魅夜から不意にもたらされた提案に、僕もエルフさんも呆気にとられたまま閉口する。


 さっきまで殺し合いを演じていた相手を連れて行くって......魅夜の真意が読めない。


「魅夜ちゃん、本気?彼女達は貴方を狙ってたんだよ?」


「はい、です」


「そのせいで、貴方のお兄ちゃんは死にかけたんだけど?」


「......はぃ」


 問い詰めるようなエルフさんの声音に魅夜はどんどん小さくなっていく。


「まあ、あの......いいんじゃないですかね!もう手出しはしてこなさそうですし」


「んなっ?!はーくん正気?まだ意識はっきりしてないんじゃないの?!」


 正気ですとも。魅夜の真意はわからない。


 わからないけど、あの姉妹がこんな消耗してる状態で何かが出来るわけでもないし、魅夜にも魅夜なりの考えがあるのだろうと結論付けただけだ。


「あり、がとう、ですっ」


 そう言って微笑む。


 この笑顔のため、といえば僕はだいぶ正気かもしれなかった。

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