Night of slaves(10)
ポタポタと頬に冷たい感触。誰かのすすり泣く声が聞こえる。
確か腹を貫かれて、それで......
「はーくん!目を覚まして!」
「お兄、ちゃん......」
手のひらを包み込む温かい感触。
自分の体のはずなのに、四肢には全く力が入らない。
重たすぎる瞼を辛うじて開くと、霞んだ視界が明瞭になっていく。
「エ......ルフ......さん?」
薄金色の髪がはらりと顔にかかる。彼女は蒼い瞳を目一杯見開いて、雫が頬を伝う。
僕の頬に落ちた涙が温かい。
生きている。僕は生きている。
自ら毒を喰らい、腹をぶち抜かれて尚、僕はこの世界にちゃんといる。
全身が軋みを上げて、生きる喜びを教えてくれている。
「うっ......ぅぅっ......」
嗚咽が止まらない。
辛かった?苦しかった?痛かった?嬉しかった?安心した?多分、全部だ。
「お兄ちゃん!お兄ちゃん!お兄ちゃん!」
この声は魅夜だ。なんかやたら言葉が流暢になってる気がしないでもないけど、間違いない。
肩に魅夜の体温を感じる。涙で湿った肩が温かい。
「くははははははっ、いいご身分だなクソ野郎」
近いところから楠 アメリの力無く叫ぶ声が僕のつむじの方向から聞こえる。
頭を突き合わせるような形で僕達は倒れ込んでいた。
「いい身分も何も、僕は死にかけでお前はほぼ無傷だろうが。おかげさまで瀕死だよ」
まだ、僕と魅夜を諦める確約ももらってないのも承知の上で軽口で答える。
「瀕死も何もテメェは1回死んでたけどな!そこのエルフに感謝することだ。そいつがいなきゃゼッテー死んでたんだからな」
エルフさんを見やると優しく微笑んでいる。
お礼は弾まないといけないな。僕の中のエルフさんの立ち位置が命の恩人にまでランクアップしてしまったぞ。
「それで、
「テメェは変なやつだな。あんな剣幕で迫っておきながらそんなことを聞く。
......諦めないって言ったらどうすんだ?」
「ふざけろっっっ!!」
まだ、終わっていない。確約させないと。2度と魅夜に近づかないと約束させないと。
体を捻って仰向けになる。
「ち、ちょっと!?はーくん動いちゃだめ!!」
エルフさんの言葉を無視して、顎や肩、辛うじて動く部分を総動員して体を引きずる。
「お前らに魅夜は渡さない!何度狙われようと何度殺されかけようと、絶対に......っ!」
精一杯アメリを睨みつけるけど、表情までは見えない。
「......吸血鬼。お前、いい兄貴に恵まれたなあ。
宛先のない呟きが空気に溶けて消えていく。
きっと見間違えじゃない。楠 アメリの頬にはたしかに銀色の雫が伝っていた。
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