Vampire night(8)

 ふわり、とした浮遊感の後に地面に落とされて「ぐえっ」と肺から息が漏れる。


 鎖が皮膚にめり込んで痛みに顔を顰める。


「セクハラ。ダメ。絶対」


 メアリと名乗った少女は無表情のままだ。全く感情が読めない。


「こんのクッソ野郎があっ!おらおらおらおら」


「ぐぉおおおお......」


 アメリの靴の踵で頬をグリグリと嬲られ、口内に血の味が広がる。


「下着見えてんぞ。見せてんのか痴女」


 白。圧倒的、白でした。


「ぬぁあああああああ!!」


 ドゴッと腹部を蹴飛ばされて地面に転がる。


 挑発しすぎた。やばい痛い。多分生きてきた中で1番痛い。


「おねぃちゃん。わたしがやる」


 やるって何を?!


 恐らく姉妹であろうこの2人は容赦がない。さっきまでの戦闘風景を思い出して背筋が震える。


「あなたの名前。さっきの吸血鬼とどういう関係。知ってること全部話して。


 ......素直に言わないと拷問する」


 淡々と明確に目的を告げてくる。アメリと呼ばれた暴力痴女より余程たちが悪い。


 たった1人の妹。金色の瞳から涙を流した姿を思い出して唇を噛みしめる。


 血が顎を伝って地面に落ちる。


「......絶対、嫌だね」


 教えてなんかやるもんか。例え妹が吸血鬼だって僕の妹に変わりはないのだから。


「わかった。わたしはおねぃちゃんみたいに優しくない」


「ち、ちょっとメアリ?本当にやる気?一般人なのに」


「この人は喋らない。目を見ればわかる」


 アメリの顔は引きつっている。僕と目が合うと「南無...」と両手を合わせる。


 くっそ。南無じゃないよ、ふざけろ!


 メアリは頭、体、足へと視線を移す。


「時間がない。きっとこれで話したくなる」


「な、なにするつもりだよ。おいっ!?」


 指がゆっくりと眼前に迫ってくる。


「眼球。無くなったら、不便。だから、気が変わったら言って」


 マジかよ。


 恐怖で身がすくむ。体を捩ってみようとしても身動きが一切とれないどころか皮膚に食い込む。


 取り返しがつかない自分の眼球と魅夜が天秤の上で左右に揺れて、傾いた。


「好きにしろよ。それでも僕は我が身かわいさに家族を売るような真似は絶対しない!!!」


 言った。言ってしまった。


 もう戻ることは出来ない。義眼とか入れるのすげー金かかんのかな。そもそもちゃんと見えんのかな。クソオヤジにはなんて説明しようか。


 指が瞼を押し広げる。


「メアリっ?!」


 アメリの悲痛のような叫びと同時にパシッとメアリの手首が掴まれる。


 なんで...なんで居るんだよ。


「はしゃぎすぎでしょ、お嬢ちゃん達」


 クソオヤジ!!!


 見たこともない黒のコートを着て、颯爽と現れる中年。


 そのまま手首を捻り上げるとメアリはそれを振り切って、アメリとともにクソオヤジから距離を取る。


「ただいま。ぼこぼこでウケる。ぷぷっ」


 いや、全然ウケないから。

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