Vampire night(9)
クソオヤジの余裕綽々といったこの態度も気に入らない。今もニヒルな笑みを浮かべて楠姉妹に立ちはだかっている。
夏なのに黒のコートを着用した中年。不審者にしか見えない。
「おねぃちゃん。こいつ。危険。」
確かに危険だ。出で立ち的に。コートの中は裸かもしれない。この中年ならやりかねん。
「えっ?!どう見ても普通のおっさんじゃない?!」
警戒するメアリとクソオヤジを見比べるアメリ。
「クソオヤジ、なんでアンタがここに?!」
「まあ色々事情とかあってね。魅夜ちゃんは?」
「魅夜は......」
以前と変わってしまった妹の姿を思い出し、口に出そうとしてやめる。
あなたの娘は吸血鬼でした。とでも言えばいいのか?そもそも俺も困惑しているんだ。説明のしようがない。
「そうか。わかった」
何がわかったというのか。言い返そうと顔をあげると、酷く悲しげに、笑った。
クソオヤジは僕から視線を切ると楠姉妹を見据える。
「それで、そこのかわいこちゃん達は何者かな?出来ればここはオレの顔に免じて、こいつのことは許してやってほしいんだけど」
「はぁ?!許すわけないでしょ!こちとら胸揉まれて、尻触られて、下着見られたんだよ!」
「おねぃちゃん。ちょっと黙って」
うん、ほんと黙って。ていうか尻は触ってない乗ってたんだよ。初めて意見が一致した。嬉しくないけど。
激昂するアメリを額に汗をかいたメアリが制止させる。
「旅商人に財貨の
「えっ」と声を上げてアメリがクソオヤジを観察すると何かに気づいたかのように瞠目した。
「ぐうぅぅぅ.....メアリ、引くよ」
「ん。わかった」
こんな中年のどこに警戒する要素があるのかわからないが、引いてくれるようだった。
楠姉妹は少しずつ距離を開ける。
「おっ、引いてくれんの?ラッキー。んじゃ早く行った行った。あ、鎖解いてやってね」
クソオヤジは飄々とした姿勢を崩さないまま、しっしっと手で追い払う動作をする。
頼むから煽るのやめてくんない?別れの挨拶代わりかわからないがギリギリと締め付けられて痛いんだけど。
「おい!そこのクソ野郎!次は絶対にぶっ殺すから覚悟しとけやこるぁあああああっ!!!」
僕を指さすアメリの言葉にメアリはため息をつくと、鎖の拘束が解かれた。
次の瞬間には2人の姿は鎖で覆われ、姿を消してしまった。
残ったのは中年1人と体をボロボロにした僕だけ。
「なんなんだよ!わけわかんねえよ!お前なんか知ってんだろ?!魅夜が!魅夜が......」
フラフラの足取りでクソオヤジに摑みかかる。
既にかなり時間が経っている。怪我もしていたし、さっきみたいなやつらがまた現れるとも限らない。
「は、早く助けに––––––」
「落ち着け、バカ息子」
冷たい声色で突き放される。
普段のちゃらついた雰囲気は消え去り、代わりに威圧感で体が強張る。
「まずは、作戦会議。だろ?」
今し方感じた威圧感はなくなりいつもの飄々とした態度にもどる。
「着いてこい」と言うと先に歩き出し、僕はクソオヤジの背中をついて歩くことしかできなかった。
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