Vampire night(6)
––––––【吸血鬼】
人の生き血を啜る伝説上の架空の存在。不死身である強靭な肉体と研ぎ澄まされた五感を有する。
ニンニクなどの強い臭いを嫌い、日光や銀製品を弱点とする。心臓に杭を打たれることで死に至る。
僕の知っている【吸血鬼】とはそういう存在だ。
T字路、夕陽に照らされた行き止まり。横たわる女生徒と傍らに佇む白銀の髪。
僕と金色の瞳の視線が絡み合って、視線を切ったのは
「ごめ、なさい」
呟いた声は確かにそう言った。
「はぁ?この場に及んで命乞いか?テメェらら吸血鬼は材料でしかねぇんだよ。覚悟して内臓ぶちまけろやぁあああああああっ!!!」
制服をはためかせてブレザーから十字架を象ったナイフを両手に構えて、突進する。
尋常な動きじゃない。舞うように刺すようにナイフで何度も切りつける。
「......っ!」
対する魅夜も凄まじい反応速度でナイフを交わしつつ素手で応戦する。
「ぐっ......!」
声を上げたのは黒みがかった臙脂色の髪。弾かれた両手からナイフを落として距離を取った。
手首の感じを確かめながら両手をヒラヒラさせると、またブレザーの内側から十字架を象ったナイフを取り出す。
「ま、待ってくれ!これはいったいなんなんだよ?!」
僕の呼び掛けに応じることなく、またナイフを構えて魅夜へ向かっていく。
さっきより加速した攻撃に魅夜は顔を顰める。頬に切り傷、ナイフが袖や手のひらや体を掠めて出血している。
「おらおらおらおらぁあああああっ!!こんなもんか吸血鬼ぃ!」
右足が魅夜の側頭部目掛けて繰り出されるが、それを腕でガード。弾かれる。
臙脂色の髪がニヤリと笑ったのが見えた。
「魅夜ぁああああっ!!!」
反射的に叫ぶ。
「っらぁあああああああああああ!!!」
体を捻って逆の足を強烈な蹴りを魅夜の右脇腹に見舞った。
「かはっ......!」
脇腹を抑えて壁に叩きつけられる。
魅夜は呼吸が荒く、痛みに眉を顰めている。
「メアリ!!やれぇえええええっ!!」
僕の後方からジャラジャラと金属の擦れる音。
ナイフを持った少女と同じ髪の色をもつ、もう1人の少女。
ショートカットの髪が右目を隠し、前髪は編み込まれている。制服のブレザーの両袖から計6本の鎖が放たれ、魅夜を拘束した。
「おねぃちゃん。やったよ。捕まえた.....殺す?」
––––––やばい。やばいやばいやばいやばい!!!
この子達は本気だ。非現実的な光景を前に停止していた脳を無理矢理再起動させる。
「ああ。そのまま捕まえてろよ。首落としてやる」
ゆっくりとナイフを構えたまま、魅夜に近づいていく。
このままじゃ魅夜が殺される!
動け動け動け動け!!!
「う...うわぁああああああああああっ!!」
ナイフを持った少女に体当たり。鎖もろとも押し倒す。
後方で「んみゃっ?!」と小さく悲鳴があがる。
「魅夜っ!逃げろぉおおおおおおあいだだだだだだだだっ?!」
「何すんだこの野郎!は、な、れ、ろぉおおおお!!」
左手を抑え込むことは出来たけど、空いた右手で顔面を鷲掴みにされて余りの痛みに悲鳴が混じる。
少女は体を捩ったり足をバタバタさせて抜け出そうとしている。カッコいいシーンになるはずだったのにどこか間抜けだ。
「......っ」
声は聞こえなかったが、ジャラジャラと金属の擦れる音が聞こえる。きっと拘束を解いているのだろう。
––––––時間を稼がないと。
「じっとしやがれ!このっ!このっ!」
「うっぜぇんだよっっっ?!」
体重をかけて抜け出されないようにしていたが、ついに抑え込んだ左手も振り払われ、彼女は上体を起こした。
そして、それは条件反射のようなものだった。
起き上がってきた上半身に両手を突き出していた。
––––––むにゅん
「ほへっ?やわらかい......?」
「い、いゃあああああああああああああっ?!?!」
––––––バシンッ!ドゴッ!ズドンッ!
顔に脇腹に鳩尾にクリティカルヒット。
ノックダウン。意識を手放す一瞬、魅夜のいた場所を見やると、そこには鎖だけで彼女の姿はなかった
良かった。逃げられたんだ......
視界が完全に黒く染まった。
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