Vampire night(5)
痛めた臀部をさすりながら立ち上がる。
「今日はあれだ。踏んだり蹴ったりってやつだ」
あの事件現場に顔パスで入っていった2人組。心が騒つく。
「早く帰ろう」
さっきより歩幅を早めて家に急ぐ。やけに静かさを感じる住宅街。公園を横切って近道。
いつもは通らない道だ。外壁と民家の間を縫うように進む。
(えっと......確かこっち)
何度か曲がって直進してまた曲がってと記憶の足跡を辿っていく。
学園に入ってすぐは中学に通ってた頃の生活サイクルと変わった起床時間に体が追いつかずによく寝坊した。そういうときに使った道だ。
そうしてぶつかったT字路。左に抜ければいつもの道に戻る。
戻れるのに、その反対側に意識を引っ張られる。右は行き止まり。そこには壁と影があるだけ。
それなのに微かに聞こえる人の呼吸音が視界の逆側からその存在感を伝えてくる。
––––––見ちゃだめだ。
脳が警鐘を鳴らす。
好奇心は猫を殺す。脳が下した判断とは裏腹に首はゆっくりと影の方へと向かう。
「お兄、ちゃん......?」
傾いた夕陽の色が薄暗い闇を僅かに照らす。視界の先、見慣れた輝く白銀の髪。血色を失った雪のような白い肌。
ただいつもと違うのは、鋭く吊り上がった眉と金色の瞳。尖った犬歯。口元は赤い液体で汚れていた。
彼女の足元には力なく横たわる制服を着た女の子。
「魅......夜......?」
––––––『テレビでやってたな。若い女の子が人気のない場所で気を失って倒れるってことが頻発してるらしい』
嫌な予感が過っては払いのける。そんなはずないと脳が目の前の光景を拒絶する。
(嘘だ。......嘘だ嘘だ嘘だ!!)
「お兄、ちゃ、ん......」
彼女は手を伸ばそうとして引っ込める。金色の瞳の片方から流れた涙が頬を伝う。
頭が機能しない。何を聞けばいい。何をしたらいい。視界がブレて体中から体温が空気に奪われて体が凍ったように動かない。
「どっせぇええええええい!!」
瞬間、僕と魅夜の間に人が落下してくる。
バンッ!と破裂音と衝撃で砕かれたコンクリートの破片が宙を舞う。
「うぉわぁあああああっ?!?!」
腰を抜かして臀部を地面に打ち付ける。
目の前にはついさっき超速度で追い抜いていったほうの片割れ。
鎖骨まで伸びた黒みがかった臙脂色の髪が左目を隠している。結った襟足をかんざしで留めた女子校生。
「き、君は......」
チラリと僕に目線だけ向けた後、立ち上がって魅夜の方に向き直した。
「見ぃーつけた。ようやくこれでぶっ殺せるわ【吸血鬼】」
喜色を帯びたその声は、魅夜に向かって放たれる。女子校生の向こう側、金色の瞳が揺れた。
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