STAND BY ME(8)

 時刻は17時20分。


 文芸部は平常運転である。


 エルフさんが転校してくるまでここは僕と色香さんだけだった。


 部室の入り口前に僕と色香さん、6つの机を並べたテーブルを挟んで向かい側にエルフさん。それが最近の光景であり、それも当たり前になってきていた。


 色香さんは指定席に座り、静かに本を読み、僕は入り口のドアに寄りかかる。


 ここにエルフさんの姿はない。もう僕の中では今の光景は平常運転ではなくなってしまっていた。


「色香さん......」


 静かに呼びかけると半分だけ体をこちらに向けて微笑む。


「僕、行ってくるよ」


「何も出来ないのに?」


「そうだね。でも、何もしないのは嫌だから」


「それはただのエゴではなくて?」


「そうだね。でも、もう決めたんだ」


「そう......」


 それ以上色香さんは何も言わなかった。変わらず微笑んで元の方向へと体を戻して手元の文庫本に目を向ける。


 その姿を確認して、文芸部を出た。



 ※※※



 さて、格好付けて出てきたものの、どこにエルフさんがいるかわからないぞ。


 背中に汗がたらりと流れる。


 あんだけ格好つけて何もありませんでしたとか恥ずかしすぎる!


 学園内を闊歩するもエルフさんの姿は見当たらない。3年の教室に訪ねてみるも姿はないし、先輩方に尋ねてみてもわからないという。


(これはマズイ!もう学園内にはいないかもな)


 散々探していないのだ。だとすればあとは......


 僕は1人この前ストーキングしたときの住宅街までやってきた。あのときの後ろめたさやら罪悪感やらが胸に去来する。


「家は......流石にないな。無断で行ったら殺されそう」


 首を横に振って住宅街を通り抜けると住宅も疎らになり、商業ビルやスーパーが並ぶ大通りへと出た。


 諦めて帰ろうか。帰ったら明日は部活もあるわけで、きっと色香さんにこれでもかといじられることだろう。


 仕方がないか、と踵を返そうとしたそのとき、人混みの中に見覚えのある薄金色の髪が視界の端で揺れる。


「お、おーい!エルフさん?!」


 一瞬だが捉えたその姿はシャツにジーンズ、目深にワークキャップを被って、周囲を警戒しながら足早に人混みを掻き分けていく。


 彼女の不審な挙動に胸騒ぎを覚える。いよいよ彼女はビルの隙間に姿を消した。


 これはいよいよ嫌われ...ああもう嫌われているんだった。だとしたら次はどうなるんだろうか。そんな不安を抱えながら覚悟を決めて僕も彼女の後を追った。

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