STAND BY ME(7)
図書室。広大な一室。入り口の側には貸し出しのカウンター。原則貸し出しは先生か図書委員が受付をしており、今は貸し出し不可の状態だ。
何度も補修を加えられた丸テーブルと椅子、所狭しと並ぶ本棚に収められた本はどこか古めかしい。喫茶店でもやったらいいんじゃないかという雰囲気だ。
初めて来たけど、文芸部の部室と似たような雰囲気が心を落ち着かせてくれる。
本棚に挟まれた通路を進んでいくつか適当に選ぶと埃は被っておらず、ちゃんと図書委員が手入れをしていることが見て取れる。
管理も大変だろうなあ。
と、そんなことをしている暇はなかった。次の授業にはちゃんと出たいし。目的の本があるであろう本棚を物色して何冊か取り出す。
テーブル席について本を開く。
真面目っぽい題名だけど、TVゲームのグラフィックがそのまま貼り付いたような表紙が中二病精神にグッとくる。
「あいうえエルフ、エルフっと」
パラパラとページをめくって確認する。やはりメジャーなのだろう。解説は数ページに渡っている。その中から知りたいことだけを抜粋する。
[種族名:エルフ 別名アールヴなど]
[出生地:人目につかない森。エルフの森と呼ばれ里を形成している場合もある。]
[特徴:様々だが多数派を占めるのは金髪碧眼。耳が後方に長い。]
[種族的特徴:男女ともに容姿端麗。男女の出生比率は3:7で女性比率が高い。
プライドが高く潔癖。他種族より優れているという意識を持つ者が多い。特にドワーフ、人間に対しては嫌悪感を示す傾向がある。
通常のエルフは寿命は1000年〜2000年。ハイエルフと呼ばれる王族の血を引くエルフは不老不死である。
森を愛し、住処としている。弓を利用した狩を得意とするが捉えた獲物は信仰する神への献上品であり食用ではない。菜食主義であり、野菜や木の実を主食としている。
魔法に対して強い親和性を持ち、他種族よりも高度で高出力な魔法を発現できる]
ファンタジー種族のエルフと実際のエルフさん。類似する点は多い。そして彼女は【エルフ】の性質を強く受け継いだ先祖返り。
全てとはいえなくても共通する部分もあるのだろう。
気になるのは、不老不死の文字。そうじゃなくても1000年〜2000年て......
目を閉じて考えて一人の女の子のことを考える。
嫌いなはずの人間の社会の中で生活して、人の心が読める。長命が故に彼女は周囲から取り残される。
僕を嫌いだと、嘘が嫌いだと言った彼女の悲しさと寂しさが混じった表情が脳裏に過ぎる。
せいぜい16年しか生きていない僕に彼女の気持ちを理解するなんて到底出来るはずはないけれど、それでもやっぱり、何もしないなんて出来やしない。
僕は知ってしまった。
彼女が【エルフ】であることも苦しんでいるであろうことも。知っていて目を閉じて耳を塞ぐなんてそんなの嫌だ。
「そうか、僕、嫌なんだ」
自分の心で呟いた1つの感情が腑に落ちた。
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